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 白石さんの畑には「農業体験農園」が約120区画ある。利用者は8割が練馬区内だが、港区や渋谷区などから電車やバスを乗り継いで来る人もいる。「定年退職後の趣味にという人、親子で野菜を育てたい人、美味しいものが食べたい人……、皆さんの思いは様々です」と白石さんは話す。

「スーパーで売っているのとは全然違います」

 白石さんは畑で年間16回の講習会をして季節に応じた作業のポイントを教える。種や肥料も用意しているので、利用者は全員同じ作物を栽培し、講習以外の日も暇を見つけて畑に通う。

「ダイコンが股割れするのは耕し方が足りないからで、昔から大根十耕と言われてきました。講習ではそんな話をするのですが、作業を重ねると利用者が変わっていきます。台風で倒れたトウモロコシは、2~3日したら自分で起き上がって実をつけます。それを見た利用者は植物の生命力に感動します。水をやるタイミングも考えないといけないから、都会暮らしでも天気を気にするようになります。食事もこんな料理が食べたいからと季節外れの野菜を買うのではなく、この野菜がたくさんできたからどう工夫して食べようかと、発想が逆になります」と、白石さんは語る。

大きなニンジンが収穫できて満面の笑顔(11月4日)

 60代の男性利用者は「つい先日、落花生を塩ゆでして食べたんですが、いやぁ旨かった」と笑う。

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「ここの作物は甘さも香りもスーパーで売っているのとは全然違います。会社の退職を機に始めたのですが、もう病み付きになってしまって」と言う。もう9年も利用している。

音楽と農業のイベント「フェスタ・イン・ビニール」

 白石さんは他にも様々な活動をしており、年に一度は畑のハウスの中で「フェスタ・イン・ビニール」と銘打って音楽イベントを開いている。

「音楽を聴きに畑にきてもらい、あわせて農業も知ってもらえないか」と考えていた時に、知り合ったサックス・フルート奏者の梅津和時さんが協力してくれた。この11月4日に開いた19回目のイベントには、梅津さんのバンド「こまっちゃクレズマ5」などが出演し、約150人が詰めかけて、ハウスの中は汗が出るほどの熱気だった。

ハウスの中で梅津和時さんらが演奏した(11月4日、白石農園)
「さあ、これからニンジンを収穫に行きましょう」と挨拶する白石好孝さん(右)

 演奏の合間には100円でニンジンを3本引き抜く収穫体験も行った。

「私の農業者としての人生は、とにかく地域に理解してもらいたいという一心でした。でも、時代が変わり始めています。あくせく働いて都市化を目指したら豊かになると信じていた人々が、持続的でシンプルな暮らしの方が豊かなのではないかと考え直し始めたのです。農地では楽しいことがあるし、美味しいものができる。マンションになってしまうより、残した方がいいと思ってくれる人が増えているように感じます」と白石さんは微笑む。

 野菜自販機に込められた農家の思いは、長い年月をかけて実を結ぼうとしている。

撮影=葉上太郎

#2に続く)