「自分たちには特別な絆があります」
そんな強い想いを支えていたのは、“育成の絆”でした。
育成選手と支配下選手。入団してしまえば同じ“プロ野球の世界”とも映りますが、決してそんなことはありません。システムで言えば、育成選手は1軍の試合には出場できませんし、2軍公式戦にも1試合5名までしか出場できません。新入団会見でも、支配下選手はテレビ局のインタビューを受けて脚光を浴びますが、育成選手は端っこで待機。尾形投手が支配下登録会見の時に辛かった経験としても話していましたが、育成選手は優勝パレードにも参加出来ず、その間ドームで待機。「悔しかった。(支配下の人には)絶対に負けないと思ってやってきた」と当時を振り返って話す尾形投手からは、何かこみ上げるものを感じました。
「自分たちには特別な絆があります」
リチャード選手も力のこもった言葉で話してくれました。入団してからずっと支配下選手とは明らかに違う待遇の中で、何度も唇を噛む思いをしてきました。育成同士でその悔しい気持ちを共有し、励ましあってきました。だからこそ、自分が支配下になっても育成の仲間たちを気遣う気持ちが強いのです。「自分も周東さんが支配下になったとき、同期として嬉しかったけど、悔しかった。だからナベさんや矢麻人の気持ちもわかるし、これからも一緒に頑張っていきたい」。枠を争うライバルだけど、共に戦ってきた仲間。その仲間たちへの想いがリチャード選手をさらに強くしたようにも感じました。
そんな育成同期の気持ちにも応えるように、刺激を受けた残された2人も今アピールに燃えています。渡邉投手は20日、1軍練習試合に召集されました。倉野信次ファーム投手統括コーチは「2軍での結果は群を抜いてよかった」と評価し、1軍の舞台へ送り出しました。1回1失点と緊張して思うようなピッチングが出来なかったという渡邉投手ですが、これからへの手ごたえも感じました。倉野コーチは「両サイドに投げ切れるし、打者が打ちづらい球を持っている」と覚醒の予感を漂わせていました。
一方、日暮選手は昨季まで3軍が主戦場で、2軍戦出場もわずか1試合1打席でした。しかし、今年はファーム練習試合でも連日ヒットを積み重ね、飛躍の年へと突き進んでいます。“逆方向に伸びていく打球”が持ち味の日暮選手が、好調へと手応えを掴んだキッカケはキャンプ中のホームランでした。2月17日、ヤクルトとのファーム練習試合で逆方向にグングン伸びるホームランを放ちました。今まで引っ張りがちだった打撃を180度転換させました。身体のブレをなくし、上手にコンタクト出来るようになるため、逆方向を意識して打つ練習を重ねてきました。すると、球の見え方も変わり、早速結果が付いてきたのです。吉本亮3軍打撃コーチも成長を感じていました。「ヘッドを使うのが上手だから飛距離もある」と期待する潜在能力開花へとコーチ陣も後押ししています。同期に刺激を受け、どこまでストイックに頑張れるか。真価が問われるシーズンになりそうです。
開幕が延期となり、今年のプロ野球がどうなるのか不透明な状況が続きます。不安や寂しさも増す一方ですが、様々な楽しみを抱きながらその時を待ちたいと思います。
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