「業界破壊企業」という言葉を知っているだろうか? スゴいビジネスモデルやテクノロジーで破壊的なイノベーションを起こす新興企業のことだ。

 アマゾンやグーグルは言うまでもなく、近年ではウーバーやエアビーアンドビーが斬新なビジネスモデルで既存の業界を破壊し、躍進を遂げてきた。しかし一方で「スタートアップ・バブル」には翳りが見え始め、コロナショックも襲い掛かる。

 新著『業界破壊企業』(光文社新書)で最新のスゴい企業を20以上紹介する起業家の斎藤徹氏が、ソフトバンクが最大2兆円を投じるWeWorkのつまずきを解説する。 (全2回の1回目/後編に続く)

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「昼間からビール飲み放題」の自由な雰囲気

 WeWorkのビジネスは、シェアワーキングスペースを提供するというものです。ビジネスの構造は比較的シンプルで、世界中の都市で好立地を見つけ、不動産のリース契約を結び、内装や設備などをおしゃれにリニューアルした上で、月額料を支払う会員や企業向けに「シェアワーキングスペース」として提供します。

WeWorkは2010年創業。本社はニューヨーク ©︎iStock.com

 シェアオフィス、シェアワーキングスペースの提供は、今やめずらしいビジネスではありませんが、WeWorkの場合、自由でおしゃれ、思いっきりクリエイティブな雰囲気で「ここなら、きっといいアイデアが生まれそう!」と思わせる演出が際立っています。ワーキングスペースでありながら、昼間からビールが飲み放題というのも、独特な自由さを感じるでしょう。

 競合のシェアオフィスサービスはいかにもビジネス然としており、ゴージャス感や効率性を重視しています。それに対して、WeWorkのブランド戦略は明らかに異質なアプローチであり、それが最大の強みといえるでしょう。

 クリエイティブなカルチャーと高額なサービスによって、「ハイグレードな人たちが集まる、クリエイティブな空間」という空気を醸成し、コミュニティとしての機能も果たしています。

 WeWorkのオフィスで横のつながりを作り、新しいビジネスを生み出す。そのような場になることをWeWorkは狙っているのです。

 こうしたブランド戦略で世界中に一気に拠点数を増やし、2020年3月の時点で、世界120以上の都市に、800を超える拠点を構えるまでになりました。世界の主要都市には、たいていWeWorkがある。そんなイメージです。もちろん東京にも、大阪にもあります。

 

WeWorkは「1時間あたり3000万円を失い続ける」

 ここでWeWorkという企業を取り上げたのは、ビジネスの着眼点がおもしろいからではありません。WeWorkのビジネスは、財務的な視点だけで見ると「不動産の又貸し業」で、個人や企業の会員が増えれば収益は上がりますが、不動産のリース料や内装費用など支出面でもかなりの負担となります。

 とはいえ、ベンチャー企業が成長するフェーズ(スケール期)では、採算度外視で事業を拡大するのは当たり前。WeWorkも例外ではありません。赤字を抱えながらビジネスを続けていることは誰もが承知していましたし、その財務面をソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドが中心となって支えていたのです。

 ところが――。2019年8月、風向きが変わる出来事が起こります。