8月2日は復活記念日──テレビの前で正座しながら、そう呟いた。

 この日、ヤクルトはナゴヤドームで中日と戦っていた。先発マウンドに上がったのはプロ8年目のアンダーハンド、山中浩史。1軍では378日ぶりとなるこの登板を、筆者は首を長くして待っていた。

8月2日の中日戦に先発した山中浩史

待ち遠しかった山中が1軍のマウンドで投げる日

「いやあ、面白くなかったですね。やっぱり1軍で投げないと面白くないし、1軍で結果を残したいという思いもあったんで……」

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 山中がそう言って2019年シーズンを振り返ったのは、昨年11月の秋季練習中のことだった。大きな故障があったわけではない。春先は少し出遅れたものの、イースタン・リーグでは18試合の登板でチーム最多の96イニングを投げ、ドラフト1位ルーキーの清水昇と並んでファーム勝ち頭の5勝を挙げていた。

 だが、1軍ではほとんど出番がなかった。5月末に1軍に呼ばれ、リリーフで3試合に登板するもいずれも失点。7月21日の阪神戦(甲子園)では先発の機会を与えられたが、5回3失点で敗戦投手になると、その後は再び声がかかることはなかった。結局、1軍登板はわずか4試合。2015年にプロ初勝利を挙げて以降、初めての「0勝」に終わる。

 14年の途中でソフトバンクから移籍し、15年にはプロ初勝利を皮切りに6連勝をマークするなど、投手陣の救世主的存在として14年ぶりのリーグ優勝に貢献した「燕のサブマリン」も、昨年9月で34歳。ベテランと言われる年齢になり、頭には戦力外もチラついた。ともすればネガティブな感情に押しつぶされそうな中で、「これも絶対にいい経験になる」と己を奮い立たせた。

 残留が決まると、10月には志願して若手主体の教育リーグであるみやざきフェニックス・リーグに参加。秋季練習では、九州東海大の3年先輩で1年時は同部屋だった松岡健一2軍投手コーチが「あの年で、あそこまで自分の力を振り絞れることがすごい」と舌を巻くほどのハードなトレーニングを自らに課し、投球フォームの見直しや、新たな変化球の習得にも取り組んだ。

 年齢に負けたくない。自分に負けたくない。何より、応援してくれるファンにもう1度、1軍で投げる姿を見てもらいたい──。今シーズンにかけるそんな思いを聞いていたから、山中が1軍のマウンドで投げる日が、オフの間から待ち遠しくて仕方なかった。

 無観客で開幕したプロ野球の公式戦が5000人を上限とした「有観客試合」にシフトしたタイミングで、筆者も球場に足を運べるようにはなっていた。ただし、基本的に遠征には行かないので、この8月2日もテレビの前。リモート取材があるわけでもなく、リラックスしながら見ていてもよかったのだが、気付けば正座をして、プレーボールがかかる頃には知らず知らずのうちに手に汗を握っていた。

 今シーズンの山中は6月24日のイースタン・リーグ巨人戦(ジャイアンツ)で6回を投げた後は、7月12日の同DeNA戦(平塚)の3回2/3が最長イニング。ヤクルトは前日、8月1日の試合でリリーフをほとんど温存しており、翌日は試合がないためブルペンの投手をどんどんつぎ込むことができる。山中には何とか5回を投げ切ってもらえれば……。それが正直な思いだった。