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ソフトバンク・サファテの“告白”と岩嵜翔の“復活” 異例の調整を経て戻るべき場所へ

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/14
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 サファテの突然の告白に誰もが驚いた。

 手術歴のある右股関節の検査のため今月7日にアメリカへ帰国してまもなく、自身のフェイスブックに「私にとって、最後の試合はすでに終えた」と現役引退を示唆する投稿をしたのだ。

 サファテは2年前のシーズン開幕直後だった、2018年4月にメスを入れ、その後はリハビリに努めてきた。昨年も今年もオープン戦では登板した。しかし、我々が期待するサファテの球ではなかった。それは彼自身が誰より痛感していたはずだ。

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 開幕延期となった自主練習期間中は家庭の事情により一時アメリカに戻っていたが、トレーニングはしっかり行っていたようだ。7月4日にチーム再合流。すぐにブルペン投球を行い、元気なところをアピールしていた。だが、その矢先、右股間節痛を再発したという。「私はおじいさんのように歩いています」とフェイスブックには綴っており、日常生活にも支障が出るほどの痛みを伴うようになっていた。

 ただ、一方で告白から数日後の今月10日にはツイッターの方で「まだ野球を辞めると決まったわけではありません」と日本語でメッセージを書き込んだ。

 いずれにせよ、サファテ本人が肉声で思いを語るときが来るだろう。どのような選択だとしても、彼の言葉を今はただ待つのみだ。

2017年のサファテは本当に偉大だった

 サファテが日本にやってきたのは2011年だった。広島カープ、西武ライオンズを経て2014年からホークスでプレー。加入2年目から3年連続でセーブ王に輝いた守護神に最大限の敬意をこめて「キング・オブ・クローザー」と呼んだ。本拠地で彼のために作られた登場演出は最高に格好良かった。

 やはり最も大きなインパクトを残してくれたのは2017年シーズンだろう。66試合に登板して54セーブ、防御率1.09。日本プロ野球のシーズン最多セーブ記録を更新し文句なしのシーズンMVPを獲得した。さらにベイスターズと戦った日本シリーズでは日本一を決めた第6戦に3イニングを投げ抜く大熱投。いつも以上にド派手なガッツポーズを見せたり、ファンの歓声を煽ったりともの凄い気迫だった。日本シリーズMVP、さらには外国人選手で初の正力松太郎賞にも輝いた。

 記録は塗り替えられるためにあると言われるが、これほどの名クローザーを次に我々が目撃できるのはいつになるだろうか。

 あの2017年のサファテは本当に偉大だった。

 ただ、あの時もそれ以外の時も、サファテは周りから尊敬されるだけの人間ではなく、彼自身もまた周りをリスペクトしていた。

 リードするために打ってくれる味方打線、試合を作ってくれる先発投手陣、そして必死で繋いでくれるブルペンの仲間たち――。

 あの2017年。サファテにバトンを渡す「8回の投手」もまた驚異的なピッチングで好成績を残していた。

 72試合登板、そして40ホールドはともにリーグ最多。防御率1.99の右腕。

 最強のセットアッパー、岩嵜翔の投球にもファンはやはりくぎ付けになった。

2017年、日本シリーズ進出を決めて記念撮影をするサファテら投手陣 ©共同通信社

完全復活が見えたはずだったが……

 しかし、その岩嵜もまた、翌シーズンの2018年から苦しんでいる。奇しくもサファテと同じ同年4月に手術を行い、大切な右肘にメスを入れた。

 長いリハビリ生活。ただ、岩嵜は一軍マウンドに帰ってきた。昨年は2試合に登板。満足いくものではなかったが、復活への足掛かりになったのは間違いない。そして今シーズンはオフの自主トレで、気鋭のトレーナーへと華麗なる転身を遂げた馬原孝浩氏(元ソフトバンク、オリックス)と個人契約して体の仕組みを学びながらフォームづくりを行ってきた。

 その成果もあり、昨年はいまいち戻りきれていなかった球のスピードが今春キャンプでは本人も納得できるところまで来ていた。

 開幕延期の期間もしっかり調整を続けて、迎えた3カ月遅れで始まったペナントレース。岩嵜はセットアッパーの地位を勝ちとることに成功した。6月19日のロッテとの開幕戦は0対0の七回に登板し、1回無失点で実に810日ぶりとなるホールドを記録した。

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