巨人・澤村がプロ10年目で最大のピンチを迎えている。これまでも右肩の故障や度重なる配置転換、私生活のトラブルなどで順風満帆というわけではなかったが、今回は深刻度が違うと言っていいだろう。
今季の澤村は開幕から安定感がなく(それ自体はそこまで珍しいことではないが)、7月1日のDeNA戦では1点リードの大事な場面を任されながら四球2つを出したところであえなく降板。ベンチで原監督から公開説教を食らってしまう。7月25日のヤクルト戦(神宮)ではサンチェスの故障で緊急先発を任されるも信頼を取り戻すには至らず、ファーム落ち。さらに、2軍に行ってからも状態は上向かず、ついには3軍降格となってしまった。
報道によると、中大の先輩でもある阿部2軍監督からは「今のあの状態じゃ、2軍でも投げさせられない。このままだと終わるから、あいつ」と糾弾され、原監督からも「技術も体力も足りなかったのかもしれない」と突き放されているという。もちろん期待の裏返しではあると思うが、そこまで言わなくてもいいというか、一歩間違えれば職場いじめというレベルの辛辣コメントである。ネット上のファンの声などを見ていてもあまり澤村擁護派はおらず、なぜか「ボロカスに言ってもいい枠」に入れられてしまっているようだ。
あまりにも有名な2012年のCSでの「頭ポカリ事件」を持ち出すまでもなく、現在の球界で澤村ほど「怒られる」ことがニュースになる選手も珍しい。ふてぶてしい風貌や不器用なキャラクターのせいなのか、そもそも、なんだか怒られやすいのだ。
評論家たちが“よってたかって”ダメ出し
8年ほど前の宮崎キャンプでのこと。澤村のブルペンを見た評論家たちが「よってたかって」と言っていいほどダメ出しをしていくのに驚いた記憶がある。ルーキーイヤーならいざ知らず、すでに先発ローテで2桁勝利を挙げている投手に対して、やたらと当たりが厳しいのだ。最近ではブログなどで澤村を叱咤激励している堀内恒夫さんも隣で推定130キロの緩いボールを投げ込むゴンザレスを見ながら「こいつは(澤村と違って)ピッチング分かってるんだよなぁ」とつぶやいていた。
強度の高いボールを投げる、という意味では澤村の右に出るものはそういない。それ以外の部分、つまり打者との駆け引きや緩急、コントロールなどに改善の余地があるように見えるから、やいのやいのと言われてしまう。充実したハード面と、課題を残すソフト面という構造は基本的には現在まで変わっていない。永遠の粗削り感。それが澤村というピッチャーなのだ。
佐野日大高校時代の澤村は3番手投手で、3年夏の大会でも登板機会がなかった。巨人のドラフト1位を雑草呼ばわりするのは気が引けるが、その夏の甲子園ではマー君とハンカチ王子が死闘を繰り広げて日本中の注目を集めていたことを考えると、いわゆるエリートピッチャーではなかったと言っていい。
高校野球引退後のオフ期間、澤村は上のレベルに行くための方法論を必死に考える。遠投の能力と球速は基本的に比例するはずだ。遠投120メートルを投げられる自分が、なぜ135キロしか出ないのか。それは下半身の力が弱いからではないか。そういった問題意識から筋力トレーニングに傾倒していったという。決して器用ではないからこそ、一度ハマるととことん突き詰める。
プロに入ってからも『プロメテウス解剖学アトラス』という解剖学の書籍を読みこんでいることが話題になった。この本は600ページ以上ある大型本で、定価はなんと1万3200円。もちろんスポーツ選手向けではなく、整形外科医向けの専門書である。トレーニングにのめりこむ選手はいても、ここまでやる選手はいない。というか、おそらくやる必要もないのだ。しかし、そこまでやってしまうオタク気質が澤村の武器であり、だからこそここまでの投手になれたのだろう。