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桜庭和志は時代に求められた「運命の人」である

伯山 『2000年の桜庭和志』についてですが、私は世代なのでPRIDEはよく見ていました。桜庭選手は地味な顔というか、イメージでいうと高田選手みたいにパッと見は華やかな感じじゃない。でも、そういう桜庭選手が実力で勝ち上がっていくことが、逆に爽快感がありました。

柳澤 そうですね。

2000年の桜庭和志』(文藝春秋)

伯山 プロレスが鬱屈していた分、「プロレスラーは強いんです」っていうあの有名なセリフが生きました。全部がドラマとして繋がっている。

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柳澤 猪木さん以来の長い物語ですね。

伯山 柳澤さんのこの本によると、格闘家のエンセン井上選手が途中からUインターに来て、桜庭和志にいろいろと細かい技術を教えますよね。他にもムエタイの選手から打撃を教わるなど桜庭の技術が徐々に増えていく模様が運命的に描かれています。UFCジャパンでも最初は、金原選手に白羽の矢が立ったんですが「最近、俺遊んじゃってて試合できる状態じゃないから、じゃあ桜庭が代わりに行けよ」という感じになって。そうしたら代役の桜庭が活躍して次につながるという。

柳澤 ええ。

伯山 これラジオ番組なんかでも同様のことがあるらしいんですよ。誰かの代わりに出たそいつがハネちゃう(人気が出る)みたいなことが。チャンスって意外とそんなところに転がっているんだなあと。

柳澤 神様が勇者に武器をくれるというゲームみたいなことが次々と起きるんです。レスリングベースの桜庭がプロレス団体で関節技に触れ、ムエタイの選手や柔術家に次々と出会い、すべての技術を身につけたところでちょうど良いタイミングでUFCジャパンがやってくるという。なんなの、これって(笑)。

伯山 桜庭さんは時代に求められた「運命の人」という感じですよね。いくつかの偶然があって技術を身に着けてグレイシー一族と戦うことになって。そしてまた、グレイシーに柔術を教えたのがたまたま日本人柔術家の前田光世であったと。

柳澤 伯山先生のご先祖さまの福岡庄太郎の時代ですね。

伯山 柳澤さんの本によると、前田光世は正確にはそんなに年中トレーニングのレッスンをしてないから、前田の技術を教わった人物が教えたんじゃないかということですが。それでも結局、100年以上前からのことが全部つながってることになるんですよね。

柳澤 はい。

伯山 それがすごく面白いですよねえ。私は思うんですが、桜庭和志が運命的にUFCジャパンに入っていくときに技術を身に着けていきましたが、同じようなことが柳澤さんにも起きたのではないかと思うんです。

柳澤 桜庭と同じようなことが僕にも? それは一体なんですか。

伯山 プロレスマスコミの脚色芸が最大値まで行きついたときに、そうじゃないファクト、真実に基づく記事も読みたいというファンのニーズも巻き起こったと思うんです。そのときに柳澤さんの書き手としての能力がさらに引き出されたんじゃないでしょうか。

柳澤 なるほど。そうかもしれませんね。

 

伯山 今回の対談は、本当に楽しい「異種格闘技戦」でした。

柳澤 もうすこしファンタジーの部分を残しておけばよかったかなあ(笑)。

司会:九龍ジョー 写真:今井知佑 構成:文春オンライン

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※神田伯山さんの公式YouTubeチャンネル「神田伯山ティービー」にて、柳澤健さんとの対談動画を公開中