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山田哲人の背中を追い、追い越す日まで

 初めて見学した、2019年秋季キャンプ。遠征試合の中継でしか見たことのない松山坊っちゃんスタジアムは、広くて開放感のある球場だった。

 1日はあっという間に過ぎ、陽が落ちて照明が焚かれる中、居残り練習をする濱田太貴の姿がそこにあった。トスは杉村繁コーチだ。

 年が明けた沖縄・浦添の春季キャンプでは、若松勉臨時コーチのマンツーマン指導も目にした。

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 濱田太貴とは、そういう選手なんだと思い知る。177cm81kgという体格は、選手の大型化が進むプロ野球界において大きな体とは言えないのだろう。それでも強打者として期待され、1年目からファームで4番を打ち、無安打ながら1軍デビューも果たした。

 選手としても指導者としても実績のあるヤクルトのレジェンド・若松勉と、11種類のトスバッティングでトリプルスリー山田哲人を育てた杉村繁。この二人の直接指導を受けるなんて。すごいな。濱田太貴という野球選手が、山田哲人の背中を追い、追い越す存在であることの証明のような気がした。これから私は、濱田太貴の成長と躍動を見届ける。壮大な歴史の目撃者になるのだと、ワクワクしながら身の引き締まる、おかしな感情が沸き上がった。

 どれだけ練習しても、球はどこに飛んでくるか分からない。自分ではコントロールできないことにも遭遇する。分かってもらえない辛さ。痛み。ファンの重み。

 これからたくさんの試練が待ち受ける中で、太貴が、哲人の背中を見失うことなく食らいついていけば、山田哲人の忍耐にきっと気づくだろう。

 野球をしたくて野球ができる環境に身を置いているのなら、唇をかみしめてでも辛抱しなければならないことがあるということ。そのことを、哲人から感じてほしい。そう切に願う。

 哲人だって、経験の積み重ねがあって今があるのだ。一足飛びに今の山田哲人ができあがったわけじゃない。でも太貴には、それだけの経験を重ねる時間が、まだたっぷりあるはずだ。

 高卒1年目、18歳が起こした退場劇。NPBからは、厳重注意と制裁金5万円という制裁があった。推定年俸の100分の1という出費は、高卒ルーキーにとってそこそこ痛かっただろう。高津臣吾監督(当時二軍監督)の頭を下げさせたかもしれない。

 これが武勇伝になるのは、せいぜい20年後の話だ。それまで、この言葉はしまっておく。

「やるじゃん」

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