※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2020」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】浮間 六太(うきま・ろった) 埼玉西武ライオンズ 52歳。コロナ禍にあっても感染に注意しつつメラドで観戦し続ける、生まれも育ちも西武線沿線の生粋の西武ファン。2018年、著書『ライオンズファン解体新書』発売。2019年、『文春野球フレッシュオールスター2019』優秀賞。文春野球学校栄光の一期生。

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 新型コロナウイルスの影響により、2020年はプロ野球にとって異例づくしのシーズンとなっている。異例の具体例は枚挙にいとまがないが、個人的に非常に気になっている異例が埼玉西武ライオンズで起こっている。「川越誠司選手とお線香の青雲の相思相愛」がそれだ。

川越誠司と日本香堂の相思相愛ぶり

 フルスイング命で修行僧のような顔つきの野手転向2年目・川越選手。そんな彼にぴったりの登場曲「ゴジラのテーマ」を捨ててまで選んだのが「青雲の歌」だった。実際は選んだというか、山川のいたずらで「青雲の歌」に変えられてしまったそうだが、初めてこの曲の流れた6月9日の練習試合で川越がホームランを打つと、このことがいくつものニュースで取り上げられ、そのまま川越の新登場曲として定着。川越のホームランにはいつの間にか「青雲弾」の名称が与えられた。

「青雲の歌」が登場曲の川越誠司

 ファンは歓迎したけれど、お線香の青雲の製造販売元は、業界シェアトップを誇る株式会社日本香堂。「青雲」と「毎日香」の2大ブランドを擁する様は、プロ野球で例えるなら巨人と阪神を両方とも保有するようなもの。ひょっとして、怖くて偉い人が「うちのCMソングを勝手に使ってけしからん!」なんて怒ってやしないだろうか? 一ライオンズファンとしてそんな風に少々気を揉んでいたのだが、そんな考えは杞憂だった。7月23日の川越プロ初ホームランの際には、日本香堂は公式Twitterで

「川越選手初ホームラン (>_<)

 感動をありがとうございます‼」

 と、怖いどころか可愛さしかないツイートで川越を祝福した。

 ばかりか、川越が強肩を披露すれば

「川越選手の送球が凄い」

 川越が試合に出ないと

「川越選手は今日も出ない・・・(´Д⊂ヽ」

 と、自社のCMソング云々に関係なく、ずっと川越を気にかけて見守っているのだった。

 川越のほうも初ホームランのお立ち台で

「青雲さんのおかげで打てました!」と発言。双方の相思相愛ぶりと、「日本香堂さん」ではなく「青雲さん」と言ってしまう川越の天然ぶりが西武ファンをほっこりさせた。

 こうなると、青雲のことや日本香堂のこと、コラボの有無などいろいろと知りたくなってくる。そこで、SNSを通じて日本香堂に質問を送ってみた。大変にありがたいことに、よりにもよってお盆前という線香のメーカーにとって一年で一番忙しい時期にもかかわらず、大変迅速に返信を頂くことができた。

「弊社内でも大いに盛り上がっております」

 まずは、最初に川越選手が登場曲に「青雲の歌」を使用していると知ったときの社内の反応はどうだったのだろう。

「川越選手が『青雲の歌』を登場曲にお使いになられたことを、私共も6月10日の報道で知った時は、大きな驚きと共に大変光栄なことと感激いたしました」 

 それには、このような事情も関係しているようだ。 

「私共の本社所在地は銀座ながらも、首都圏の営業拠点は池袋にあり、西武ファンの社員も多いことから、川越選手の話題は弊社内でも大いに盛り上がっております」

 なんと、多くの社員は西武ファンにとって心強い同志だった。川越選手に度を越えて好意的なのも納得である。日本香堂に対して、これまで以上の親近感が芽生えてくるようだ。

 そもそも「青雲」ブランドは、コロナ自粛で沈んだ世の中にエールを送ろうと、この春からボーカルに落語家の林家たい平師匠を迎え、同ブランドの原点ともいえる「強く生きよう、青雲。」のキャッチコピーを復活させて、新CMをスタートさせた矢先だったとのこと。

 そんなタイミングで、コロナ禍を乗り越えて開幕を迎えんとするプロ野球に「“力水をつける”ような、明るい話題を提供」できたことは、うれしい誤算だったことだろう。

 新CMでももちろんお茶の間に流れている「青雲の歌」だが、いったいどんなところがライオンズファンに訴えかけているのだろう。

「『青雲の歌』は1981年のテレビCM登場以来、約40年の長きにわたり、森田公一氏、尾崎紀世彦氏、錦織健氏……と名だたる歌唱者に歌い継がれ、幅広い世代の方にお馴染みいただく曲ではありますが、各選手の登場曲の殆どがアドレナリン全開のアップテンポに傾く中に混じると、相当に異質な曲調といえますし、むしろそのギャップが多くのファンの方々の注目にも繋がり、ある種、微笑ましさをも感じられているのではないか、と思われます」

 確かに球場内に「青雲の歌」がかかると、スタンドには微笑ましい空気が流れる。「川越! 最近全然打てないじゃないか!」なんて野次がまったく飛ばないのは、コロナの影響ばかりでなく、この歌にファンのアドレナリンを抑制する作用があるのかもしれない。