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元楽天投手・片山博視の「打者として譲れないもの」

文春野球コラム フレッシュオールスター2020

2020/08/31

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2020」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】HISATO(ひさと) 東北楽天ゴールデンイーグルス KK歳。埼玉生まれ。極度の野球好き主婦。2017年に文春野球フレッシュオールスターで初めて野球コラムを執筆。現在は野球と旅と文章に没頭しまくる生活を送っています。NPB、NPB二軍とともにBCLにドハマリ中。

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 いかつい風貌、見上げる巨漢。ついたキャッチフレーズは「鬼軍曹」。だがTwitter投票で決まったキャッチフレーズはお気に召さないらしい。

「何で鬼……(笑)『名参謀』の方がいいです」

 とはいえ、選手をしごく姿は楽しそうだ。

 BCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズのヘッドコーチ兼任選手。192cm110kgの片山博視。かつてのリリーフ左腕は、今や威風堂々のスラッガーだ。

BCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズのヘッドコーチ兼任選手の片山博視 ©HISATO

「野手になって思い切りやろうかな」

 昨年電撃的に「野手」として現役復帰しファンを驚かせた片山は、2005年東北楽天ゴールデンイーグルスの高校生ドラフト1巡目指名選手だった。投手として206試合に出場し、2011年には23ホールドを挙げる活躍を見せた。肘を痛め一時野手に転向したが、2017年楽天を戦力外に。12球団合同トライアウトに参加した後、埼玉武蔵ヒートベアーズに投手兼任コーチとして入団した。

「最初は投手やってたんですけど、トミー・ジョンした肘で無理矢理トライアウトに投げた代償が、もう次の年に肩に来ていたんです。その頃BCリーグで27歳以上のオーバーエイジが5人までとなったので、じゃあ自分が外れますと」

 肩は治らない。その間投手コーチに専念していたが、今度は野手に故障があり選手が足りなくなった。

「自分の中で、まだまだ野球で勝負したい、という気持ちがあったので。だったら野手になって思い切りやろうかなと。決断は早かったですね」

 見た目の威厳があり過ぎて失念しがちだが、片山の年齢は現役復帰当時でまだ32歳。現役NPB選手では、銀次(楽天)、炭谷銀仁朗(巨人)、川端慎吾(ヤクルト)らと同学年だ。

 2019年7月に選手登録された片山は、打率.280、本塁打3を記録。今季は最初から野手として迎えるシーズンとなった。野手としてプレーしながらも、ヘッドコーチとして目を配ることは変わらない。投手コーチ兼任としては同じ元楽天の宮川将がいるが、ローテーションや試合での継投などは基本的に片山担当だ。野手の練習を見たり、投手目線で監督に助言することもある。

楽天時代の片山

打者として譲れない思い

 しかし、コーチだけだった時と、野手として一緒にやっている今とでは、選手の反応が全く違うという。

「コーチはやはり結果論も出る。でも自分がやれば自分も失敗します。試合に出て同じようにやって、その失敗を『こうやるんだよ』って見せられるのが兼任の仕事だと思います」

 今年は開幕戦から本塁打を2本打つなど、その打棒は存在感を増した。試合で本塁打を打った後、高いテンションで選手と喜ぶ姿も印象的だ。

「やっぱり共有出来る方がね。コーチという立場は、選手と距離が出来ると思うんですけど、NPBと違ってもっと近くてもいい。喜ぶときはみんなで喜んで、駄目な時はみんなでやるって感じです」

 ただし「共有」はするが、野手同士は「勝負」だ。ホームランを打って「どうだ!」と煽れば若い選手は悔しがる。

「それがすごく大事なんですよ。そういう悔しさって絶対忘れない。自分も打って『どうだ!』と来るのもすごくいいと思う。そしたら僕も火が付きますし、互いに火を付けあったらいいと思います」

 そこには今も譲れない思いがある。

「『こいつらより打つ』っていう感情を絶対忘れないことです」

 同時に「俺を超えてみろ」という思いも本物だ。

「勝負なんで、こいつらと。自分より打率がいいとすごく悔しいし、打点で上にいる奴は抜きたい。全ての打撃成績で勝ちたい。だから盗塁もそうなんですよ。負けたくない」