まだ暑さの残る9月。夕暮れを背に、私は「監督」にスカウトされた。
夢物語が始まりそうな書き出しですが、それは「文春ホークス」の田尻監督からのまさかのコラムニストとしてのお誘い。なんだ、ホークスのドラフトの隠し球じゃないのか、残念。いや、そりゃそうやろ。
でも、監督。僕を選んだのはとても正しかったと言えます。なぜならば、僕はホークスのファーム本拠地で働いているから。タマホームスタジアム筑後のスタジアムDJ。それが僕、カイラです。
要するに完全に「中の人」。正直、身内のようなところもあるので、そりゃ色々わかるはわかるんですが、改めて書くとなると不思議で恥ずかしい感覚にもなります。わかるといっても「尾形投手はスマブラでドンキーを使う」とかそんな情報くらいですが。
そもそも僕は吉本興業所属の芸人で、普段はカイキンショウというコンビで漫才をしています。
それこそ若鷹たちが日々歯を食いしばりながら目指しているホークスの一軍本拠地・福岡PayPayドームの隣にそびえたつ「BOSS E・ZO FUKUOKA」の中にある「よしもと福岡 大和証券/CONNECT劇場」の舞台に立たせてもらっています。みなさんに「笑い」をお届けするために、僕も毎日歯を食いしばっています。
いや、ここは全国の文系野球ファンが集う文春野球。オマエなんぞ知らん!の声がディスプレイとネットの海を越えて僕のスマホから聞こえてきているので、ホークスの話に舵を切っていきましょう。
僕に書けるのは僕が関わっていることだけだと思っているので、今回はタマホームスタジアム筑後、略してタマスタについてのお話です。
タマスタは本当に“怖い”場所
僕がスタジアムDJになって今季が3年目。プロ野球が、ホークスが好きなのはもちろん、出身地の福岡県八女市から近いこともあり、オーディションを受けました。簡単に言えば、椎野投手とか大竹投手とか2017年ドラフト組と同期ってことですね。失礼しました。忘れてください。
3年間、球場に通い、試合を間近で見てきました。たった3年ですが、タマスタに関して明確に言えることはあります。タマスタは、怖い場所です。楽しいけど、怖いんです。
いや、待って。最後まで読んでください。何言ってるの?と思われるのは承知の上。だけど、事実は事実、怖いんだから仕方ない。
楽しいのに怖いなんて変な表現するな! そう思うでしょうけど、僕は言いたい。一回来てみな。わかるから。来たらわかるし、通えばわかる。タマスタは本当に怖い場所です。
二軍戦は「選手育成の場」と位置付けられているとはいえ、プロ野球は実力主義の世界。若手もベテランも、全員が平等にレギュラー争いをして、さらにその先にある一軍への切符を掴もうと切磋琢磨しています。しかも、ご存じの、あのホークスの選手層で。
時には怖いくらいの、まさに鬼気迫る表情でバットを振り、ボールを投げる。二軍ならではのプロ野球選手の凄みというものがあります。怖いのは、その姿を目と鼻の先で見ることができること。いや、見れてしまうことです。
鋭い眼光でプレーする姿と、チームメイトと笑顔で話す姿、どちらも近くで見てしまえば間違いなく推しの選手がみつかります。なんなら声も聞こえるほどの距離。「一軍に上がったあの選手、活躍できるかな」とかそういう親心的な怖さを覚えるほど選手を身近に感じられる球場、推しの選手に出会える球場。
一度来たらもうその魅力から逃げられない。そんな場所怖いじゃないですか。
分かってます。僕には聞こえます。オマエ何騒いでいるんだっていう読者の皆さんの声が。だけど、これだけは胸を張って言いたい。
タマスタは野球観戦に関して、紛れもなく最高の場所です。球場としての設備も二軍球場とは思えないクオリティです。実際に訪れたファンの方はみんな驚いた顔をされます。ファンの方だけでなく、ビジター球団の選手や関係者の方からもそんな声をたくさん聞きました。
ただ、じつは見えない部分では苦労もあるのです。色々なものが満遍なく整えられているわけでは決してありません。最大3113人の観客を、限られた設備、人員、スペースでおもてなししています。
特に今シーズンは、最大限の感染症対策をとらなくてはなりません。収容人数を制限しているとはいえ、ドームと違って入場口はひとつ。最新の機材やシステムもありません。検温・体調チェックや座席情報の登録など、初めてのことばかりで開幕当初は混雑が目立ちました。
そんな中でもスタッフそれぞれが試行錯誤を重ねて、今ではスムーズな運営ができるようになっています。球場設備は簡単にアップデートできませんが、そのぶんスタッフがどんどん進化し、補っていく。タマスタは常に進化する球場。向上心の塊みたいな球場。漫画の主人公のような球場なのです。
そうだ、分かった。戦隊モノで言えば確実にレッドです。