そして願いは叶う。秋にはファイターズが伊藤投手の1位指名を明言し、そのまま単独指名に成功し入団。「どんだげいいごど」が起きたのだ。役場には間もなくして垂れ幕が飾られた。
背番号は17番に決まった。盛田さんも現役時代につけていた番号だ。そして、ファイターズでは去年まで浦野博司投手がつけていた17番。伊藤投手が華やかに指名あいさつを受けていたドラフトの翌日に、浦野投手は引退を表明していた。
同じ日のスポーツ紙に2人の記事が掲載されていた。この時はまだ背番号は決まっていなかったけれど、いま見返すと感慨深い。浦野投手はチームからもファンからもマスコミからも誰からも愛される選手だった。今季からは打撃投手としてチームを支えている。浦野投手が育てた番号を、伊藤投手が引継ぎ、これから自分の色を付けていく。
33年の年月を経て渡されたバトン
春季キャンプでの伊藤投手はとても几帳面に感じた。練習には大きなリュックを背負い中には拘りが詰まっているようだ。マウスピースも複数所持しているらしい。ブルペン投球の後などにメモを取る姿もよく見かけた。その場で急いで書きとるメモは夜にノートに清書するそうだ。
因みに、取材を受ける時の伊藤投手に浜言葉はない。もうひとつ因みに盛田さんはあんなに関東の生活が長かったのにいつまでもいつまでも浜言葉を手放さなかった。時代の違いなのか、性格の違いなのか、そんなことを考えるだけでも楽しい。毎年地元で少年野球大会を開いていた盛田さんから伊藤少年も指導を受けていた。33年の年月を経てバトンは渡された。
チームにとって今季5戦目、明日のライオンズ戦。伊藤投手はきっと1年目だなんて忘れてしまうくらいの姿を見せてくれるだろう。たとえ何かあったとしても、翌日は試合も移動もない。チームは全力でルーキーをサポート出来るだろう。もちろん鹿部町から応援もやってくる、ご家族はもちろん、鹿部町長も駆け付けるそうだ。どこかで盛田さんも見ているに違いない。
最後にひとつ、浜言葉レッスン。「ひろみ」、は、「ひろみ」、と発音します。あ、字だと同じですね。ええと、ならば、アメリカの地名「シカゴ」のイントネーションでどうぞ。せーの。ひろみ。出来ましたね? 浜の風、吹きましたね?? 明日は心に大漁旗のご用意を。
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