「このチームは、負けたくないというチームメイトの集まりなんです」
逆転サヨナラ打の川島は、ヒーローインタビューで胸を張って言った。
「試合に出るまで長かったです(笑)。体を冷やさないようにベンチで声を出していました。とにかくバットに当てて、事を起こしてやろう。内野安打でもいい。何とかしたいという気持ちだけで打ちました」
それから継いだ言葉が、なんとも男前だった。
「ちょっと怪しい雰囲気もありました。(試合が)良い雰囲気から怪しい雰囲気に。だけど、ベンチで松田さんを、マッチを助けようとチーム一丸となってやりましたんで、松田も岩嵜も(次戦の)明後日から頑張りますんで」
場内が大きな拍手に包まれる。
「あの二人を助けたのは僕です!」
声を出してはいけないのだが、スタンドが沸き上がった。
ヒーローインタビューを終えた後の囲み取材でも、惚れ惚れする言葉がいくつも飛び出した。
「この場面は皆の想いだけでした。(今季初打席という)個人的な感情は抜き。繋いで、繋いで自分に回ってきた。このチームは、負けたくないというチームメイトの集まりなんです。僕がネクストバッターズサークルに立った時から皆の声が聞こえてきた。それに応えてやろうという気持ちだけで打ちました」
「マッチがエラーをした後の攻撃で、『お前ら先輩を助けるんだぞ』と声を掛けたら『分かりました』と言って打席に向かっていった後輩たちがいました。本当に頼もしい。多分、僕が言わなくてもみんな分かっている。良いチームです。(岩嵜)翔もこれが負け投手になるのと、勝ち投手になるのでは全然違う。去年も彼はスタートの方でホームランを打たれて苦しくなった。その時は声に出さなかったけど、みんなで救うんだと顔で合図を送り合っていました」
川島はサヨナラ打を放った後、ベンチに戻ってから岩嵜と抱き合っていた。
「翔が『ありがとうございました』って言うんですよ。泣きそうな顔をしてね。僕はまた、良いチームだなと思いました。これからまた頑張るはずですよ、彼は」
完璧な人間なんて、この世にはいない。
ミスをしたくてする人間だっていない。
野球はチームスポーツだ。何か「失敗」や「失態」が起きた時、その当事者だけでなく全員でどう向き合うか。そこに真のチーム力が現れる。
ペナントレースは長い。結果がついてこなくて苦しい時期もあるだろう。その時は必ずチーム力が助けてくれる。最後のひと踏ん張りがある。だから、ホークスは強い。2021年シーズンもそれは変わらないと、確信を得た。
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