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青柳晃洋に“レジェンドのカクカク”を夢見る――他球団ファンが語る阪神論

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/17
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 はじめまして。松樟太郎と申します。樟太郎と書いて「くすたろう」と読みます。

 文字や言語についての本をミシマ社から2冊ほど出しております。

 最初に告白しておかねばならないのですが、私はいわゆる「阪神タイガースファン」ではありません。

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 どちらかというと、「横浜DeNAベイスターズ」のファンだったりします。

 そんな私がなぜ、おめおめとこの場に出てきたかというと、本年度の阪神チームを率いるミシマ監督から「他球団ファンから見た阪神像を知りたい」「関西メディアはみな阪神びいきだから、外部からの目で忌憚なき意見を」と言われ、ならば末席を汚す意味も少しはあるのではないか……と思った次第です。

 最初は阪神ファンのフリをして書こうかとも思ったのですが、もしそんなことをして途中でバレたら、ケツの穴に手を突っ込まれて歯をガタガタ言わされたり、実家がヒノキ風呂であることを大声でバラされても文句は言えません……。なので最初に謝っておきます。すいません。私がユダです。

魅惑と情熱のサイドスロー

 子供の頃、どこのファンということもなく野球全般が好きで、好きな選手のチームもバラバラでした。当時はまさに野球全体をボーダレスに愛していたのであり、人はひょっとすると成長するごとに、視野が狭くなる生き物なのかもしれません。

 中でも好きな選手が二人いました。阪神タイガースの小林繁投手と、西武ライオンズの永射保投手です。

 オールドファンの方なら共通点がすぐにおわかりでしょう。二人とも飲食店経営をしていた……ではなく、投げ方が極めて独特なのです。

 ちょっとアンダー気味に、独特の「タメ」を経て鋭い球を投げ込む「情熱のサイドスロー」小林投手。やはりサイドから、まるで海賊界の頂点を狙う某人物のごとく「腕が伸びるのか?」というほどあらぬ位置からボールがリリースされる「ピンクのサウスポー」永射投手。

 どちらも震えるほどカッコよく、そりゃあ何度も真似しました。特に小林投手のカクカクとしたストップモーションのような動きは完コピしたと言っても過言ではありません。

 もっとも、私のモノマネは徐々にロボットダンスのごとく過剰にカクカクするようになり、最近YouTubeで改めて小林投手の映像を見直してみたら、「なんてスムーズなフォームなんだ」と逆にびっくりしました。

 ちなみに同時に永射投手の映像も見てみたら、こちらはこちらでほぼ記憶通りでびっくりしました。永射投手のスナック「サウスポー」にて、ご本人の前でモノマネを披露できなかったことが、つくづく悔やまれます。

サイドなのかアンダーなのか、青柳投手のモヤモヤ投法

 さて、そんな私ですから、青柳晃洋投手の出現には興奮しました。サイドスローなんだかアンダースローなんだかわからないあのモヤモヤする投げ方。「おお、小林投手が現代に復活した」と思ったものです。

青柳晃洋

 後で知ったのですが、ドラフト指名後のあいさつでも、小林投手を意識した発言をしていたようですね。「小林投手のようなGキラーになりたい」と。

 そして、そんな青柳投手はみるみる成長し、何の因果かGキラーではなくBキラーとなり、ベイスターズ打線を完膚なきまでに打ちのめしていきました。いや、ここ数年のベイスターズはまったくもってタイガースに歯が立たず、青柳投手に限らずあらゆる投手に小動物のごとく軽くひねられているのですが、それでも青柳投手に抑えられたときは、「いいもの見たし、まあいいか」と思えます。

 なぜだかよくわからないのですが、好き嫌いとは別に、抑えられて腹が立つ投手と腹が立たない投手がいます。藤浪投手に抑えられるとはらわたが煮えくり返る思いがしますが(ごめん藤浪君)、岩田投手ならなぜか許せます。少し前なら、下柳投手や久保田投手に抑えられてもむしろニヤニヤしていたくらいですが、それはまったく別の理由かもしれません。メッセンジャー投手にもさんざん抑えられましたが、横浜が誇る「家系ラーメン好き」と知ってからはあまり腹が立たなくなりました。人の印象など身勝手なものです。ごめん藤浪君。

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