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投球フォームの大幅な変更を決断

 契約を結んですぐ、吉住は投球フォームの大幅な変更を決断した。それまでオーバースローで投げていたのを横手投げに変えた。

「3年間やってダメだった。迷いは全くないです」

サイドスローの吉住晴斗 ©田尻耕太郎

 その吉住は、現在どうしているのか。

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 3月19日、ウエスタン・リーグ開幕戦の阪神タイガース戦の最終回に登板した。1回1失点だったが、ファームとはいえ公式戦に出場したのは2年ぶりのことだった。同24日のウエスタンのオリックス・バファローズ戦にも登板して1人目に安打を許したものの、続く山足達也を三ゴロ、そして後藤駿太からは空振り三振を奪い、最後は昨季まで同僚だった田城飛翔を二ゴロに仕留めた。一軍でも実績のあるバッターを抑えて無失点で切り抜けたのは確かな自信になった。

 右の本格派から横手の変則フォームに変えたことで、いくつかの懸念があった。

 まずはスピードだ。一般的には遅くなると思われたが、吉住はサイドから140キロを超えるストレートを投げ込む。冒頭に151キロと記したが、プロ入り後はどんどん遅くなり、昨年は135キロ前後しか出ない時期もあった。

「今の方が、体の使い方が合っているのかもしれません」

 もう一つは左打者対策だ。横手投げだと左打者にボールの軌道が見られやすくなる。しかし、逆に武器になるボールもある。膝元へ食い込む球を決めれば、そう簡単には打たれない。

「じつは真っ直ぐよりも変化球の方がコントロールに自信が持てるようになったんです」

 先日の三軍戦で、左打者相手に投げ込んだ内角低めのスライダーは素晴らしかった。もともと角度がある中で、ホームベースの手前からもう一段階グイッと食い込む。バッターは体勢を崩されながら、力なくバットを空振りしていた。

 ただ、筆者目線だが、気になる悪癖がある。テイクバックをしてトップを作った際に右手がどうしても高く上がってしまう時があるのだ。修正に取り組んでいるが、勝負球など力を入れる一球でつい出てしまう。ならば、それを短所にするのではなく特長に変えてしまえばいい。昔のアンダースローの投手はテイクバックの際に右手を上げていた。現在の高橋礼や牧田和久のように地面ギリギリでリリースするのではなく、もう少し高い位置だ。古い例えで申し訳ないが、かつて西武で活躍した松沼博久のようなワンクォーター(スリークォーターならぬ)投法で、今よりも腕を下げて投げるのも一つの方法かもしれない。

右手が挙がる悪癖 ©田尻耕太郎

不器用な人間には「一度身につけたものはもう離さない」という長所がある

 それはともかく、少なくとも今年の吉住は、何より表情が豊かになった。目の輝きが間違いなく違って見える。

「正直、去年は野球が楽しくなくなっていました。朝が特につらかった。練習に行くのも嫌だと思うようになっていました。今年はそんなことはない。もちろん現状に満足なんてしていませんし、越えなきゃいけない壁はたくさんありますけど、それに向かっていくんだという前向きな気持ちになることが出来ています」

 筆者は昨年1月に、わずか5日間ほどだったが吉住の自主トレをサポートした。ほかにも多くの選手が参加した自主トレ合宿の中で、吉住は比較的不器用なところがあった。同年代の遠藤淳志(広島)や清水達也(中日)が出来たことをなかなか体で表現出来なかった。

 リーダー格の千賀滉大に「自分が納得するまでやってみろ」と言われて、夜中11時過ぎから室内に設置した木製ブルペンの上でシャドーピッチングを始めた。「じゃあ朝まで頑張って」と帰り支度を始めた先輩たち。「朝まで」はさすがに冗談で、逆にそれは「もういいよ」と終了を知らせる優しさだったのだが、吉住は「分かりました」と言って全く止める素振りを見せなかった。結局1人だけ居残り、周りのスタッフらが「もう帰ろう」と言うまで投球動作を繰り返した。深夜1時が迫る頃だった。

昨年1月の自主トレの時の様子。左が石川(ソフトバンク)で右が浜地(阪神) 6copy;田尻耕太郎

 体力も根性も人一倍あるし、アスリートに最も大切な負けず嫌いな一面も持っている。

 ただ、不器用だ。だけど、不器用な人間には「一度身につけたものはもう離さない」という長所がある。

 ホークスが何もない選手をドラフト1位で指名するはずがない。吉住晴斗は何か物凄いことをやってくれる投手に違いないのだ。

 その開花を球団も、ファンも、ダルビッシュも信じている。まだ誰も吉住を諦めていない。だからもう、自分から簡単には諦めないでほしいのだ。

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