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加藤と武田勝にもう一つの共通点

 加藤と武田勝には、もう一つ共通点がある。発掘してきた担当スカウトが同じなのだ。

 あれは2014年だったか。当時、加藤が所属していた社会人野球・かずさマジックの試合には毎回のように、日本ハムのスカウトが姿を見せた。いつもソフト帽でばっちり決めている今成泰章スカウトは、かつて在籍した今成亮太捕手の父であり、見初めた選手を入団に導くまで離れないことから「マムシ」の異名で知られるこの世界の伝説でもある。

 ある時、加藤について聞いてみた。「初速130キロ、終速135キロ。そんなピッチャーがどっかにいねえかなと思って、探してるんだよ。いたら教えてくれよ。すぐ獲りに行くからな」。煙に巻かれたような気がした。投手が投げたボールが加速してミットに収まるわけはないのだから。でも、初速と終速の差が小さい、いわゆる「キレ」のいい投手は絶対的なスピードがなくとも、プロでメシを食える可能性がある。一方で球速という見栄えの良さはないから、他球団と競合する可能性も低くなる。日本ハムのドラフトと言えば、甲子園のスター優先のミーハー主義と言われることがある。一方でそんな実質を優先した新人獲得術も、移転後の強いチームを支えてきた。

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 加藤も15年オフのドラフトで指名され、プロの世界にやってくる。指名あいさつで今成スカウトは「今年は良いですかとお願いを続けてきて、3年目でやっとだよ」。いかに欲しかったかが分かる。マムシの面目躍如だった。

 ちなみに北海道に移転してから18年目、この間、日本ハムで一番多くの先発マウンドに立ったのは武田勝の187試合。大リーグへと去ったダルビッシュより、大谷より上を行く立派な数字だ。それだけ多くの試合を任されたということなのだから。エースとは呼ばれないかもしれないが、最強の2番手は記憶にも記録にも残るのだ。加藤にも今から、そんな道を歩んでほしい。先人は好投が白星に結びつかない『無援護地獄』にはまるのも得意だったから、そんな伝統は継がないようにしてほしいけれど。

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