その数秒の空白が、愛おしかった。「素晴らしいホームランでした」と声をかけられ、マイクを口元に寄せるも言葉が出ない。答えを待たず次の質問へ移るアナウンサーに、口角を下げて、どこか歯痒そうな表情をみせる。まるで、手の届かないところへ行ってしまった回転寿司を見送る少年のようだった。

 あの時の“ロンロン”王柏融は、きっと「ナニカ」を胸に、押し寄せる外国語の波を受けとめていた。

あっという間のヒーローインタビュー

 2021年5月12日、お立ち台にはその日先制ホームランを放ったロンロンと、7回無失点で3勝目を挙げた加藤貴之投手。ふたり。ただふたり。そう、台湾出身のロンロンについているはずの通訳が不在だったのである。ちなみにロンロンは日本語を「ムズカシイ」と語り、得意とはしていない。

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王柏融と加藤貴之

 そして冒頭のやり取りに至る。「ありがとうございます」「東京ドーム、みなさん。応援ありがとうございました。マタネ」ロンロンはこう言って、加藤投手にマイクを渡した。久々のお立ち台だったこともあり、ファンの間では「もっと話を聞きたかった」という声が上がるほど、あっという間の出来事だった。かく言う私も「もう終わっちゃった!」と一瞬思った。

 直後、ふと、ある記事が頭によぎり涙が溢れた。

「ナニカ」は「誓い」

 さかのぼること約1年2か月前。コロナ禍で開幕が遅れていた2020年4月。日刊スポーツが「Fの誓い」と題して、各選手にファイターズファンへの誓いを尋ねた記事を掲載した。私の脳裏に蘇ったのは、それに対するロンロンの回答だ。「『日本語でヒーローインタビュー』にしましょう。ファンのために、テレビを見てくれた皆さんのためにできるだけ日本語で話していきたいと思います」「(通訳の)〇〇さんなしで! 目標ですね」。残念ながら、その後の2020年シーズンでヒーローインタビューは実現しなかった。

 しかし、忘れてなどいなかったのだ。ロンロンは果たした。「誓い」を。実に1年以上の時を経て。

 あの時のロンロンは、きっと「誓い」を胸に、押し寄せる外国語の波を受けとめていた。(引用元:https://www.nikkansports.com/baseball/news/202004090000151.html