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「遅くなって申し訳ありません! 新入団の大田泰示です」

 その日、巨人のファームは練習日。球場に着くと、大田はサードのポジションでノックを受けていた。今でこそ強肩の外野手で鳴らしているが、高校時代はショートを守り、入団後はジャイアンツのホットコーナーを担う存在としてサードにコンバートされていた。背番号は2002年まで松井秀喜が背負っていた55番。それだけの大きな期待が18歳の大きな体にかけられていた。

 取材の開始予定時刻はとっくに過ぎていたが、まだノックが終わる気配はない。砂にまみれ、何本も何本も、ひたすらノックを受け続ける大田。左に振られ、右に振られ、必死に打球にくらいつく。いち野球ファンとして、仕事など関係なく目に焼き付けるべき光景がそこにあった。

 すっかり暗くなった頃、ようやくコーチから「よし、今日はここまで!」の声がかかり、練習を終えた大田。ダッシュしてベンチ裏に戻ると、ほどなくして我々が待つ記者席へ駆けこんできた。

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「遅くなって申し訳ありません! 新入団の大田泰示です」

 まっ茶色に汚れたユニフォームのままお辞儀をする大田。練習でお疲れのところすみません、と言うと「全然大丈夫です。それよりも皆さんをお待たせしてしまって……」。ハードな練習の直後になかなかできる対応ではない。いい大人の我々が思わず背すじを伸ばしたのは言うまでもない。

31歳になった今も根っこの部分は変わっていない

 取材で大田は、慎重に言葉を選びながらプロ1年目の素直な心情を話してくれた。

「自分は体が大きいので、どうしても重心が高くなってしまう。だから球を捕りに行く時も重心を低くするよう意識してサードの守備に取り組んでいます」

「打撃面は、正直に言うと今はまだ打てないですね。当たり前ですが、プロの投手はレベルがまったく違って、特にキレが鋭いんです。その事を打席に入る度に実感しています」

「キャンプからずっとボールを見る“間”を作ることをテーマに練習しているのですが、まだ形になっていない。その形ができれば、キレのいい直球も変化球も捕らえられるようになると思うんです」

「一軍でも二軍でも関係なく、ファンの皆さん、特に子供達にはフルスイングを見てほしいんです。自分も子供の頃松井さんや清原さん、仁志さん達の姿を見てプロを目指したので、子供達にはプロのプレーを目に焼き付けて夢や目標を持ってもらいたいですね」

 高校時代から注目された存在であり、取材も数多く受けているとはいえ、大田は18歳にしてこちらが恐縮するほどに礼儀正しく、自分の言葉を持ち、相手にわかりやすく伝える術を心得ている選手だった。巨人での8年間、北海道日本ハムでの5年間を経て31歳になった今も根っこの部分は変わっていない。6日のヒーローインタビューには、それが表れていた。

 TA(オースティン)が帰国してもベイスターズにはTO(大田泰示)がいる。これから何度となくあのパワーを見せつけ、お立ち台に立ってほしい。あなたの思い出の地、横浜スタジアムのファンはずっと心待ちにしている。

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