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声援も厳しい言葉も、すべてがファンの愛情

 ふと思い出したことがある。移籍後に大和が話していた言葉だ。

「やっぱり甲子園は特別よ」

 この言葉にはいろいろな意味が込められていた。一つは野球人としての憧れだ。「野球をやっていたら誰もが憧れる場所。そこでプレーできることはやっぱり感動する」。高校球児にとって憧れの場所は、同じように野球人であるプロ野球選手にとっても特別な場所なのだ。そして、もう一つは阪神ファンの熱量を感じられる最高の場所であるからだという。「チャンスで打った時の地鳴りというか地響きのような声援はずっと覚えてる。5万人近くのファンのあれだけの声援の中で野球ができるのは限られてるし、幸せもんよ」大和の低音ボイスが興奮気味だった。

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 もちろん当時は全てが心地よい声援だったわけではない。チャンスで凡退するとため息をつかれ、失策すると厳しい言葉もかけられた。しかし、それらも全て阪神ファンの愛情だと移籍してから気が付いた。「失敗しても注目される。大変やなって思うけど、他球団じゃなかなか(新聞の)一面になることはないけど、阪神はヒーローになれるチャンスも沢山ある。いいことも悪いこともファンが見てくれてるのは幸せやなって思う」。この時、大和は阪神ファンの事を「みんなが監督」と表現した。

「(阪神ファンは)ほんまの野球好き。厳しい言葉も言われるけど、勝っても負けてもファンが急に減ることはないし、連敗してもそれでも応援するやん? 熱量が違うんよ」ご存じの通り、現在チームは21戦を終え、わずか3勝。それでも大和の話したように「もう阪神ファンやめるわ!」と本気でファンをやめた人はいるだろうか。「なんでピッチャー変えへんねん!」「ここ代打やろ!」そんなことを言いながら球場へ足を運び、自宅のテレビで阪神の試合をみているはずだ。かつての暗黒時代も2003年や2005年のリーグ優勝時には「あん時弱かったな~!!」と笑い話にできたはずだ。

 実際、わずか1勝で迎えた4月15日、今季初の甲子園での伝統の一戦には34,153人の虎党が駆け付けた。この日開催されたセ・パ両リーグの中で最も多い観客動員数だった。埋め尽くされた右翼席に佐藤輝明の逆転弾が飛び込んだ5回には、この日までの勝率.063が大阪の市外局番「06」に迫ると揶揄されていたことなど忘れるかのように沸いた。8回裏にはロハスJr.がダメ押しの2点本塁打を放ち、最後は遅ればせながら新守護神の岩崎優が今季初セーブを記録。今季18試合目でようやく挙げた2勝目を、まるで優勝したかのように喜んだ。これこそが大和が今でも忘れられない「阪神ファンの熱量」なのである。この日、今季初登板初勝利を挙げた青柳晃洋は「(甲子園の声援は)やっぱり最高っすね!」と声を弾ませたのが何よりの証拠。

 残りは122試合。

 さぁ、阪神ファンのみなさん、“監督”をやめますか? それとも続投しますか?

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