悲願の開幕投手が幻に……復帰後はその投球でチームを鼓舞
矢野燿大監督に内定をもらったのは3月中旬。通過点と捉えていたからこそ、喜びや武者震いではなく「やっと言ってもらえた」と本心を吐き出した。だが、その約1週間後に新型コロナウイルスに感染し、晴れの舞台は幻に。隔離期間を経てまずは二軍に合流した。
「一度失ったと思ってるんで。ポジションを奪いにいくつもりです」
ついさっきまで2022年の開幕投手を務めるはずだった男は、謙そん、誇張しすぎなぐらいのハングリーさを前面に出して出直しを宣言した。3月25日、自分が立つはずだった京セラドームのマウンドには代役に指名された藤浪がいた。自宅でのテレビ観戦。「素直に応援できなかった。プロに入って初めて悔しい気持ちで試合を見ました。ずっと優勝したい、チームが勝って欲しいと思って普段は試合も見てますけど、いつもの感情では見ることができなかったです」と沸々と熱くなるものがあった。
2度の二軍戦登板を経て、4月15日の巨人戦で青柳の2022年は始まった。甲子園のマウンドで8回7安打1失点。投げるだけでなく、仲間の攻撃中には声を張り上げ、得点すればベンチ前で跳び上がって喜んだ。
明確な意図があったという。
「僕がテレビで見ていて野球がつまらなそうだったので。僕はそうなりたくないなというのはあった。今年1年間楽しく野球をやりたいなと思うので」
チームの連敗を6で止める快投には“変革”の思いが込められていた。その後も4月22日のヤクルト戦で完封勝利し、同29日の巨人戦では2戦連続完投でキャリア初の開幕3連勝。出遅れを取り戻して余りある獅子奮迅のパフォーマンスで、苦しむ猛虎を鼓舞している。
一方で、二軍調整中に何度も目撃したのは惜しみなく若手に助言を送る姿。ドラフト1位の森木大智らに向けて「あいつらが(一軍に)出てきたら僕の出番が無くなるんですけどね」と豪快に笑う姿にも貫禄が漂っていた。
横手投げの変則投法でドラフト5位からスターダムに駆け上がってきたキャリア。苦手のフィールディング、制球難を下積みの二軍生活で克服してきた。
天性ではなく、「たたき上げのエース」。
メッセンジャーのように喜怒哀楽を表出してけん引するタイプでもなければ、藤浪のような豪球でねじ伏せるわけでもない。青柳晃洋が描く「エース像」はこの1年でその輪郭が見えてくる。
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ともに10年目、高校時代から甲子園を沸かせてきた藤浪と北條は中学時代から互いを知り合う仲だが、藤浪は「北條」、北條は「藤浪」と名字で呼ぶ。近本、木浪など他の同級生は晋太郎(藤浪)、ジョー(北條)と呼ぶだけになんだかよそよそしいが北條は言う。「中学から僕の中では“藤浪”なんすよ。晋太郎って呼べるんですよ。でも、あいつも“今さら何”って、びっくりしますよ」。ほどよい距離感がたまらない。今年こそいまだ果たされていない甲子園でのお立ち台競演が見たい。
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