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ライオンズの本拠地「ベルーナドーム」に出現した“カラスの巣”…みんなで見守ろう、野球より大切なもの

文春野球コラム ペナントレース2022

note

カラスとの共生のために、今ライオンズができること。

 住みついてしまった以上、埼玉西武ライオンズはこのカラスと共生していくほかありません。日本国が定める鳥獣保護法ではカラスであろうがタカであろうがカモメであろうがイヌワシであろうが許可なく捕獲したり処分したりすることはできないからです。カラスの繁殖期は3月下旬から7月中旬頃だそうで、巣を作るのも繁殖のためなのだとか。となれば、もうすでに巣の中に卵やヒナがいる可能性が高い。卵やヒナがいる巣を許可なく撤去した者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処される可能性があるといいます。ヒナが無事に飛び立っていくまで、埼玉西武ライオンズはカラスを見守らなくてはならないのです。

もはや野生のライオンのことなど見守っている場合ではない

 選手たちにもしっかりとカラスとの共生を意識してプレーしてもらう必要があるでしょう。それなりに天井が高いベルーナドームですが、これまで幾度も打球が天井を直撃してきた実例があります。カラスの巣は常に打球の脅威にさらされているのです。巣の位置は、バックネット裏中央から伸びる支柱と一塁側「イッキュウイコウヨ!!」看板上部から伸びる支柱の交差するあたり、ピッチャーマウンド後方のショート寄りです。チャンスで頻繁に見せられる特大の内野ポップフライなどは厳に謹んでいただきたいものです。

バックネット裏中央から伸びる支柱
「イッキュウイコウヨ!!」看板上から伸びる支柱

 ちなみに、ベルーナドームのローカルルールではプレイングフィールド上部の天井に打球が当たった場合はインプレーです。カラスの巣に当たった場合も当然インプレーですので、落下してくるボールを捕球すればアウトになります。しかし、万が一カラスの巣に当ててしまった場合、落ちてくるのはボールだけではありません。巣の残骸やカラスが拾ってきたピンバッジはもちろん、大切な卵やヒナが落ちてくる可能性があるわけです。

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 ボールと卵が両方落ちてきたとき、内野陣はどちらをキャッチすべきなのか。選択の余地はありません、もちろん卵です。アウトより生命。野球より生命。その意識を常に持っておかないといけません。そして、我々ファンも、インプレー中のボールを捨てても卵をキャッチした名手のことを「源田たま卵」などとしっかり讃えていくべきでしょう。

 最終的に巣に卵を戻してあげることまで考えると、新庄ビッグボスが本拠地開幕戦で乗っていた空飛ぶバイク、借りておいたほうがいいかもしれませんね。野球選手なもんで「投げて戻せる」なんて妙な自信があったりするかもしれませんが、そんな精密機械がいたら今頃2試合連続完全試合くらいしているはずですからね。

選手、審判、ファン、みんなで見守ろう生命の営み。

 図らずも生命の営みを見守っていく使命を負った埼玉西武ライオンズの2022年シーズン。巣から落下してきた小枝とか、生命が住む以上は当然落ちてくるであろうフンなどについても憤慨などせず笑って受け流していきたいところ。このあたりは審判団にも協力をいただいて、ピチョッと落ちてきそうなときには「インフィールド糞来!」などと宣告してもらえるとありがたいなと思います。

 もしも誰かの頭上……たとえば二塁塁審を担当する白井一行審判員の頭上にピチョッとフンが落ちてきた場合にも、カラスを睨みつけて凄むのではなく、「アアアァァイ!(※本人的にはストライクの意)」と得意のコールで水に流してくれたらいいなと思います。そうしたら野球ファンも「優しい世界」に救われるような気持ちになり、SNSにも「元気で結構」「大人の対応に感謝」「カラスもスッキリしたと思います」などのほっこりコメントが並ぶことでしょう。

 目を閉じればまぶたに浮かぶ映画『天空の城ラピュタ』の一場面。それまで劇中で恐ろしい殺人兵器として描かれていたロボット兵がヒタキの巣と卵を守っている姿を見たとき、自然の大切さとそれを破壊する人間の愚かさを痛切に感じたものです。今季の埼玉西武ライオンズはあのロボット兵のように、カラスの巣と卵を守っていきます。たとえ、ときに戦いを捨てることになったとしても。我々は野球をするマシーンではなく、生命を愛する心を持った人間なのですから。

 ようこそカラスさん、我らがベルーナドームへ。

 素晴らしい環境のもと、新しい生命を存分に育んでください。

 元気にヒナが飛び立つその日を楽しみに待っています!

ある試合後の当該エリアの掃除の様子。枝も卵も落下していないようだな、ヨシ!

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