4月末から怒濤の11連勝を飾ったかと思えば、連勝ストップ後は2勝9敗と、まさかの大失速。まさに“ジェットコースター状態”で交流戦に突入した。
セ・リーグとの18試合の行方がシーズン後半の成績に大きく関わるだけに、今年の楽天はどうなるのか。上位進出のカギを握るであろう選手にスポットライトを当ててみたい。
炭谷の思い描く理想の心理戦を展開できたシーン
19年から21年のシーズン途中まで巨人に在籍した炭谷銀仁朗だ。今季は37試合(5月26日現在)でマスクをかぶり、チームをけん引している扇の要に意気込みを聞くと、「セ・リーグの打者の攻め方はわかりますよ」とニヤリと笑みを浮かべつつ、こう続けた。
「相手も僕のことを知っているので駆け引きのし合いになりますね」
特に古巣・巨人との対戦を心待ちにしているようで、「当然意識はしますね。勝ちたいのは大前提です。その上で話をすると、原監督の下で2年半だけですけど、プレーしていて戦略的なところは見てきたつもりです。他の監督にはない原監督ならではの作戦もあると思う。そこの経験は生かしたいですよね」と頼もしい言葉が飛び出した。
対戦したい打者にはGの主砲「岡本和真」の名を挙げ、「現時点では和真の性格を加味して、“ささやき戦法”でいきます」と揺さぶりをかける珍作戦も予告した。
野球とは騙し合いのスポーツ――。炭谷自身は捕手というポジションの醍醐味(だいごみ)について「駆け引きが楽しいです」と即答する。相手打者と一番近くで待ち球を探り合い、裏をかこうとサインを出す――。炭谷の思い描く理想の心理戦を展開できたシーンがあった。
5月13日の西武戦。この試合は負けてしまったのだが、青く染まった敵地ベルーナドームは炭谷の配球術によってどよめきが起こった。カード初戦のこの日の先発は瀧中瞭太。直球の球速は140キロ台前半がほとんど。100キロ前後のカーブとの緩急で打ち取るスタイルでゲームメイクするタイプの投手だ。
最も警戒すべき相手はここまで14本塁打、31打点で2冠を走っていた山川穂高。絶好調男を「どう抑えるか」がこの3連戦最大の懸案事項だった。
まずは0―0の2回の第1打席。初球から5球続けてカーブを要求した。最後は四球となって出塁を許したが、この攻めが後に効果を発揮することになる。
続く4回の第2打席では初球に97キロでストライクを奪うと、2ストライク1ボールからの5球目も97キロのカーブで空振り三振に仕留めた。マウンドで上にはガッツポーズを繰り出す瀧中の姿があった。
6回の第3打席もカーブを2球続けて三ゴロに打ち取った。誰も予想できなかったであろう、12球連続のカーブでレオの主砲を封じ込めた。引き合いに出して申し訳ないが、太田光や堀内謙伍といった若手には到底真似できない芸当だった。ちなみに、この試合以降、交流戦が始まるまで山川の本塁打は「0」で、打点はわずかに「1」。山川の打撃に少なからず影響があったように思えてならない。