「仕事の相談です。6月の西武―巨人戦で、池袋から球場までの電車内でOBのトークイベントを開催する事になりまして、アナウンサーを集めています。興味がありましたら連絡をください」
仕事仲間のアナウンサーからこんなLINEが届いたのは、開幕間もない4月1日の事だった。
「4月1日」だけに一瞬「?」が浮かんだが、そんなウソをつくような人ではない。しかも引っかかったのは、「池袋から球場までの電車内」という箇所だった。
トークイベントをするなら、通常の電車ではなくイベントのための臨時列車を走らせるという意味だろう。普段乗れない臨時列車に、仕事として乗れる! 私は嬉々として二つ返事でOKした。
普通に考えれば、「OBとのトークイベント」というところにまず食いつきそうなものだが、私は大の鉄道好きだ。
臨時列車に乗れる→しかも仕事で乗れる→さらに野球の仕事で乗れる――という順で嬉しさがこみ上げてきた。
早速OKの返事をすると、「じゃあ、詳細については角盈男さんから連絡が行きます」との返答。角さんって、あの巨人の角さん? そして数分後、本当にご本人と電話をして、今回の詳細を聞く事になった。
<西武―巨人の交流戦の3日間、池袋駅から西武球場前駅まで臨時電車を運行する。10両編成の1号車から10号車まで、それぞれの車両にOBとアナウンサーが乗って約1時間のトークをする>
それが角さんから最初に聞いた内容だった。
石毛宏典の叱咤激励
てっきりOB1人とアナウンサー1人で全車両のお客さんに向けてトークショーをするのだと思っていたが、なんというスケールの大きな企画! そして、こんな壮大な企画が本当に実現できるのだろうか? 正直、プレスリリースが出されるまで半信半疑だった。
それでも話は進み、迎えた「レジェンド・エキスプレス・ツアー」初日の6月7日。待ち合わせ場所は、西武池袋線の池袋駅の<西武南口>。東口の大きな広場や「よく当たる」と有名な宝くじ売り場がある<西武口>や、西武百貨店の地下1階すぐそばの<東口>ではなく、まるで“裏口”のように知る人ぞ知るという場所にあるのが<西武南口>だ。
他に比べるとあまり知られていないこの改札に、有名な人たちが次々にやってきた。西武OBは、石毛宏典さん、松沼博久さん、平野謙さん、西崎幸広さん。巨人OBは定岡正二さん、鹿取義隆さん、角盈男さん、槙原寛己さん、岡崎郁さん、村田真一さん、鈴木尚広さん(一部の方は、1日あるいは2日のみの参加)。
15時3分の発車時間前、まだまだ新しい40000系車両が池袋駅に滑り込むと、それぞれの号車にスタンバイしたOBの皆さんと我々アナウンサーが号車ごとに皆さんを「お出迎え」するところから始まる。通常のロングシート(横に長い座席)としても使われる40000系を、クロスシート(特急電車のように、2席×2列にして正面を向く形。S-TRAINや拝島ライナーで使用)にして、その正面に我々が立ち、いわゆるバスガイドさん状態でトークを展開するのだ。
僕は1日目と2日目は石毛宏典さんと、3日目は松沼博久さんとご一緒する事になった。初日、事前に個別の打合せもあったが、石毛さんはテレ玉の中継でもご一緒している。「打合せは無くていいよね? 任せるから」「はい!」この会話だけで打合せは終了した。
サービス精神旺盛の石毛さんは、我々の号車のチケットを買ってくれた参加者が乗り込むやいなやエンジン全開だ。本来の流れであれば、電車が池袋駅を発車するタイミングで10号車の車掌マイクから角さんが「プレイボール!」のアナウンスをして始める事になっていたのだが、目の前にお客さんが来ると、石毛さんはもう待っていられなかった(笑)。
トークの内容は、元々プロを目指していなかった石毛さんが西武に入団するまでのご家族との会話、広岡監督時代の厳しい練習の話などなど。
なかでも一番熱がこもっていたのは、今のライオンズへの叱咤激励だった。特に駒澤大学の後輩でもある若林楽人には、「すごく買っているのよ~。今日は絶対に打つ! みんなで応援しよう」とエールを送る。するとこの日のゲームで若林が巨人相手に逆転2点タイムリーを打ったのだから、石毛さんの思い、恐るべしだ。