久々に「イーッ」の顔を見たような気がする。
9月2日の対DeNA戦、3週間ぶりに一軍復帰登板した大瀬良大地のことである。大瀬良はこの日、たびたびランナーを出してピンチを背負うものの、要所を締めて7回を無失点に抑えた。ピンチを凌いでベンチに戻る際、大瀬良は口を横に広げて「イーッ」という表情をする。この試合で大瀬良は「イーッ」を連発していた。
ちなみに大瀬良がよく見せる表情には、ほっぺたを膨らませる「プクー」というのもあり、これは思うような投球ができなかった時などによく見られる(最も印象に残るのはカープがCS進出を逃した2015年の最終試合、打たれて交代を告げられた大瀬良はプクーであった)。「プクー」はわかりやすいが、ピンチを凌いだならば笑顔の一つも見せてもいいはずなのに、なぜ大瀬良はそこで「イーッ」とするのだろう。そこには「エースとしての重圧」が関わっているように思う。
エースとはそんなに絶対的な存在なのだろうか
エースとは、その球団で最高の先発投手と考えられている。現在「カープのエースは誰か」と聞かれれば、多くの人は迷わず大瀬良の名を挙げるだろう。大瀬良の投げる試合は勝って当たり前、とファンは思ってしまう。だから裏切られた場合の失望も大きくなる。
今シーズン、二軍降格前の大瀬良は6戦連続で勝ち星がなく、特に降格直前の8月12日対巨人戦では3回5失点と打ち込まれた。この状態に辛辣だったのが地元メディアで、中国新聞のコラム「球炎」には「今の広島に、もはやエースはいなくなった」と書かれ(※注1)、RCC中国放送では横山雄二アナが「大瀬良はエースなんですかね?」(※注2)と疑問を呈した。大瀬良自身も冒頭の試合後に「さんざん迷惑をかけた」と繰り返し語っていたように、「エースとしての期待」に応えられないというもどかしさがあったに違いない。その気持ちが「イーッ」に表れていたのではないだろうか。
しかし、エースとはそんなに絶対的な存在なのだろうか。どんなにすごい投手であっても、シーズンを通して無敗ということはまずあり得ない。更に、必ずしも「最も良い成績の投手=エース」という訳でもない。現に昨シーズンのカープの投手成績を見てみれば、勝利数では九里亜蓮が13勝で大瀬良の10勝を上回り、防御率では森下暢仁が2.98で大瀬良の3.07を上回っている。それでも九里や森下をエースと呼ばず、大瀬良をエースと呼ぶのには、成績以外の何かが影響していると考えざるを得ない。
過去にカープで「エース」と呼ばれた投手を思い出してみれば、北別府学、大野豊、川口和久、佐々岡真司、黒田博樹、前田健太……といった名前が挙がる。「この投手の名前が入っていないじゃないか」と思われる人もいるかも知れない。また、先日読んだ本(※注3)には「初代エース長谷川良平」「カープが誇る4代目エース佐々岡真司」と書かれており、「では2代目、3代目は誰なんだろう……」としばし頭を悩ませたものである。つまり、「誰をもってエースと呼ぶか」という基準は、結構主観的で曖昧なものであることがわかる。