「はい、これ誕生日プレゼント」

「ボール?」

「うん。ホームランボール」

ADVERTISEMENT

 こんなドラマみたいなワンシーンも、プロ野球選手なら叶えられる。広島には、何度も記念日にホームラン球を届けている粋な男がいる。今回の主役は、末包昇大外野手(26)。大切な人の記念日に力が増す心優しきヒーローである。

末包昇大

妻に続いて母に送る本塁打

 ドラマの始まりは、プロとして出場6試合目を迎えた4月2日の中日戦だった。5回の打席で笠原のカットボールを捉えると、打球はバンテリンドームの左中間席最深部に消えた。記念すべきプロ1号。偶然か、この日は昨年3月に結婚した妻・杏子さんの誕生日だった。

 舞台は変わり、香川・坂出市。母・尚子さんは、気持ちの晴れない日が続いていた。息子を応援しようと球場で観戦した日に限って、末包のバットは振るわなかった。末包の耳には入らないように、そして自分たちを安心させるかのように、家族内でこっそりと話し合った。

「次に打つのも誰かの記念日ってことか! じゃあ、母の日に本塁打を打ってくれるのかもね」

 時は少し進んで、5月8日のDeNA戦。末包は7試合ぶりに先発で起用された。迎えた4回無死満塁。宮国のシュートを豪快に振り抜き、左翼席上段まで軽々と飛ばした。妻の誕生日以来となるプロ2号満塁弾。この日は5月の第2日曜日、つまり「母の日」だった。

 母・尚子さんは、ゴルフを満喫している最中だった。18ホールを回りながら、試合映像をスマホでチェックしていた。ちょうど息子が満塁弾を放ったときは、母にとってもこの日一番の勝負所。母の日の一発に、うれし涙で視界はぼやけていた。それでも冷静にバーディーを奪い、喜びに浸った。

 母の日にあわせて、尚子さんのもとには花が届いていた。差出人の名前は妻・杏子さんのみで、末包の名前が書かれていなかった。「昇大からのプレゼントは、お花ではなく本塁打だったのかな」。妻に続いて母に送る本塁打となった。