1ページ目から読む
2/2ページ目

オリックスとの第6戦。先制点を生み出した「ある判断」

 それを象徴したのが第6戦、5回表の先制点の場面。先頭の7番オスナがセンター前ヒットで出塁すると、続く宮本丈がきっちりと送りバントを決め、1死二塁。続く西浦直亨はサードライナーに倒れましたが、1番の塩見泰隆がレフト前にクリーンヒット。オスナが二塁からホームに生還したシーンです。

 実は、試合前の練習からこの日レフトに入ったオリックス・吉田正尚選手を観察していました。本当かどうかはわからないけど、吉田選手は強い返球ができないんじゃないかと睨んでいました。1、2戦の京セラドーム大阪でDHで出ていた吉田選手があえてレフトを守る。しかも、第6戦が行われるほっともっとフィールド神戸はこのシリーズ初めての天然芝球場。霧が出たため芝を触るとわずかに濡れている。野手は神経を使います。

 そして二塁ランナーのオスナ。足は決して速くはないのですが、彼は一生懸命走ってくれる選手です。しかし、相手は「外国人だし、走塁は手を抜くのではないか」と思っているのではないかと。だから、私は塩見への投球がバットに当たった瞬間、オスナを信頼して、左手をぐるぐると回しました。レフトは前進守備でしたが、まったく止める気はありませんでした。その結果、ホームは悠々セーフ。大きな先取点をもぎとりました。

ADVERTISEMENT

負けて憂鬱な気分のときに見た「吉兆」

 去年のシリーズって面白かったですよね? でも現場の人間からするとこんなに辛く、苦しいシリーズはありませんでした。3勝1敗と王手をかけた第5戦、東京ドームで逆転負けを食らったあの試合。2−5でリードされた8回裏、山田が3ランを打って同点に追いついたときは正直「これで日本一だ」と思いましたから(笑)。

 第6戦のため神戸に移動。ちょっと憂鬱な気分で迎えたゲーム当日の昼のことでした。「今日こそ決めたい」と思ってホテルの窓から外を見たら、空にはきれいな虹がかかっていました。それを見たら不思議と勇気が湧いてきた。

 しかし、試合が始まるころには体感温度マイナスの極寒に。私と一塁コーチャーの森岡良介はブルブル震えが止まらないほどでした。グラウンドは体験したことがないほどの寒さに。ベンチでコートを着て、ストーブに当たっているコーチ陣を恨めしく思いながらコーチャーズボックスに立ち続けました。

「寒すぎる、勝って早く終わりたい」

「寒すぎる、勝って早く終わりたい」。1-1で迎えた延長12回表。試合が始まって約5時間の夜11時すぎ、ついに決勝点が生まれました。2死から塩見がヒットで出て、このシリーズ両チーム初のパスボールが出て、塩見が二塁へ。パスボールが出た瞬間、「勝てるぞ」と思い集中しました。

 そして代打・川端慎吾のレフト前にポトリと落とすヒットで塩見が生還。川端の打球はまたも吉田選手の前でした。バットに当たった瞬間左手をぐるぐる回すと塩見はヘッドスライディングで生還しました。その裏は3イニング目となったマクガフがしっかり抑えて2−1で勝利。選手・コーチたちと抱き合いながら「昼間見た虹が、吉兆だったのかな」、なんて思っていました。

 振り返ればあのシリーズ、いろんなことが起きたなかで、髙津監督をはじめコーチ陣は本当に冷静でした。「やることをしっかりやれば、絶対に勝てる」「大量失点をせず、接戦に持ち込めば絶対に勝てる」と常に言っていました。

「9番・ライト坂口智隆」。髙津監督の発表に右往左往

 実は、冷静だった僕も一瞬、我を失ったことがあります。時を戻して、京セラドーム大阪で行われた第2戦。初戦を逆転負けで失ったダメージも多少あるなかの昼のコーチミーティングでのことです。スタメンは監督が決めるんですが、突然「9番・ライト坂口智隆」と言ったんです。えっ!? と一瞬耳を疑いました。相手投手は左腕の宮城大弥投手。シーズン中ならあえて左対左は組まないオーダーです。

 坂口は控えのつもりでいるだろうから1秒でも早く伝えて準備をさせねばと、コーチ室を飛び出しました。しかしどこを探しても姿が見えない。食堂で、ロッカールームで、選手たちに聞いても「グッチさんさっきまでいたんですけど……」の堂々巡り。ついにトイレで発見したときは、大声が出ました。

「グッチ! 今日スタメンやからな!」。その瞬間の坂口の顔が忘れられません。5秒ぐらいフリーズしたあと「嘘でしょ!?」「マ、マジすか!」と今まで聞いたことのないほどの大声で叫んでいました。

 その後はみなさんご存知のとおり。坂口がスタメンでコールされると、坂口が守るライト側のバファローズファンから大歓声が。グッチだけがホームグラウンドに立っているような雰囲気が醸し出されたせいか、試合は見事勝利。今考えると、これも髙津監督の作戦のひとつだったのかもしれないですね。

2年連続の日本一は「絶対大丈夫」

 今年のスワローズは本当に強かった。主にテレビ観戦でしたが、去年より一段も二段も強さのレベルが上ったなと感じました。もちろん三冠王の4番打者・村上宗隆の活躍が強烈だったこともありますが、彼がいなかったとしても、山田哲人、オスナ、サンタナなど複数の選手が4番を打てる、それぐらい圧力を持った攻撃陣だった。こんな打線、敵チームから見たら脅威以外のなにものでもないですよね。

 そして投手陣も、去年の日本一の核となった奥川恭伸投手をシーズン早々に欠きましたが、それをカバーする投手陣、そして髙津監督ら首脳陣のやりくりにも舌を巻きました。

 この攻撃陣、投手陣があれば2年連続の日本一も絶対大丈夫! みなさんと同じく僕も声燕を送らせていただきます!

 最後に。三輪広報、頼んでおいた神宮のライトスタンド下にあるという僕の手形、早く写真に撮って送ってください。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム クライマックスシリーズ2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/57443 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。