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【戦力外通告】日本ハム・宮田輝星はもう一度這い上がると言った。

文春野球コラム 日本シリーズ2022

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 宮田輝星が「もう一度這い上がります‼」とツイートしていた。深夜の仕事部屋で手が止まり、しばらく黙り込んだ。文字がぼわ~っとにじんでぼやける。宮田がインスタグラムでその決意表明をして、ツイッターに紐づけたものだった。泣けてきた。気持ちの整理をつけている。何て純な若者だろう。失意の底から立ち上がり、懸命に闘おうとしている。

宮田輝星(左)と新庄剛志監督 ©時事通信社

 10月3日、日本ハムは鎌ケ谷の球団施設で谷川昌希、望月大希、片岡奨人、宮田輝星、育成選手の高山優希、樋口龍之介、難波侑平の7選手に対し戦力外通告をしたと発表した。通告の第1期ってやつだ。CS終了後の第2期には金子千尋の構想外(コーチ打診を断って、現役続行の道を探る)が発表になる。野球ファンにしてみればいちばん嫌な季節の到来だ。毎年、新聞を見て「うわ、始まった……」と呻(うめ)いている。

この後どんな人生を歩むにしても僕は宮田を応援したい

 宮田輝星は育成から這い上がった3年目の選手だ。俊足好守の外野手。名前の「輝星」は吉田輝星と同じだが、こちらは「ほくと」と読ませる。真面目な選手で鎌ケ谷の人気者だ。僕は宮田の戦力外に心底驚いた。だってこないだイースタンでホームラン打ったばかりじゃないか。取り組んできたことが実を結びつつあった。

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 戦力外通告の2日前、彼はこうツイートしている。

「左打席に挑戦して約4年‼ 人生で初めて左打席で柵越えのホームランを打つ事が出来ました‼ コーチ陣をはじめ多くの方々指導していただいたおかげです‼ 残り試合もあと一試合になりましたが、最後まで一生懸命頑張ります。#初ホームラン #スイッチヒッター #左打席」(2022年10月1日、宮田輝星選手のツイートから)

 

 何て残酷なことだ。つらすぎる。こんな喜びと達成感にあふれたツイートが宙づりにされている。宮田は俊足を生かすため左打ちを一から作りあげた。走り打ちではなく、しっかり叩けるバッティングを目指していた。イースタン最終シリーズ、ロッテ戦のホームランはその成果なのだ。コツコツ努力を重ね成長してきた選手が、その成長過程で突然、道を閉ざされる。まだがんばれるのに場を奪われる。あんまりじゃないか。それがプロの世界だと言われればそうなのだろうが、僕のような傍でただ眺めてただけの一ファンですら心がぐしゃっと潰される。

「ファイターズには感謝しかないです。どんな時も応援してくれたファンの皆さんにも感謝です。これからもファイターズを応援し続けてほしいです。イソとは比べられることも多かったけど一番仲が良かった選手。ケガだけはしないように、絶対に盗塁王を取ってほしいと思います」(3日戦力外通告後に出された公式コメント。「イソ」は同じ俊足外野手の五十幡亮汰)

 とても平常心ではいられない。なんていいヤツなんだ。心が潰された直後に宮田輝星はこんな配慮のあるコメントをしている。チームに感謝し、ファンに感謝し、ライバルの五十幡を思いやり、むしろ大いに激励している。人間は、土壇場のいちばん追い込まれてきついときに本当の姿が現れるのだと思う。宮田輝星は本当にこういう人間なのだ。僕はファイターズを離れ、この後どんな人生を歩むにしても宮田を応援したい。

 いや、そうじゃない。そんな迂遠(うえん)なことが言いたいんじゃない。

 宮田輝星、僕は今、全力で応援したいんだ。ここにファンがいる。こんなおっさんだけじゃなくて、いっぱいファンがいる。みんな今、応援しないでいつ応援する?

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