「カジさんには頑張って1年でも長く現役生活を続けてほしい」
当時は梶谷選手や荒波翔選手、同学年の飛雄馬選手と仲良くしていたという。
「カジさんは、最初は僕のことを受け入れたくなかったそうなんです。僕が入団する時にカジさんはまだ内野手でポジションも被っていたのですが、球団の人に“お前がしっかりしないからショートを補強しないといけないんだ”的なことを言われたみたいで、こいつとは仲良くできないと。若い頃から負けん気が強い選手だったし、僕にはそういう部分が少し足りなかったのかもしれません。
引退を決めた時にもカジさんに報告がてら“僕の身体と交換してあげましょうか?”って冗談で言ったら、それならお前の腰と関節を譲ってほしいわって返されて……。あちこち故障を抱えている中でいろいろ苦しいとは思うんですけど、カジさんには頑張って1年でも長く現役生活を続けてほしいんです。
同学年の三嶋(一輝)も病気で大変だったと聞きますけど、あの頃ベイスターズで一緒にやっていた選手みんなに対してそういう気持ちは持っています。僕が先に引退しちゃったからなおさらですよね」
現在のベイスターズで言えば、戸柱恭孝が同学年で同じ駒澤大学出身。エース今永昇太は3学年下にあたる。
「駒大野球部は朝イチで紅白戦をする伝統があるのですが、今永は1年生の時点で球離れがめちゃくちゃ遅いピッチャーで、打席に立つと手から離れた瞬間にボールがズバッと来る。朝からそんなキレキレの球を打てないし、当時の今永はまだコントロールがバラついていたのでたまに球が抜けた時に避けるのも大変なんです。それでみんな今永を敵チームに回したくないんですよ(笑)。
当時からトバ(戸柱)は今永と組んでいたから、トバが味方のチームなら今永と対戦せずに済む。だからいつも紅白戦の前になると“トバは絶対こっちな!”なんて言ってましたね。
その後プロ入りして中日の山本昌さんと対戦しましたけど、山本昌さんの球離れの遅さも半端なかった。スピードガンだと130km台でも全くそうは見えないし、コントロールも抜群でした」
「自分の練習よりも若い選手のために費やす時間が長くなっていった」
1年目から一軍入りし、2015年と16年には6本塁打を記録したものの、あと一歩、レギュラーを獲るまでには至らなかった。白崎さんにとってはそのことがずっと悔いとして残っている。
「ベイスターズにはドラフト1位という最高の評価で獲って貰ったので、なかなか結果が出せない自分がとにかく歯がゆかった。それでも中畑清監督やラミちゃんはいつも自信を持てと励ましてくれたし、大村(巌)さんや馬場(敏史)さんらコーチ陣には丁寧に指導してもらいました。
もちろん僕自身も必死にやってはいたんだけど、あと一歩踏ん張りきれなかった。だからバファローズへのトレードが決まった時も、最初に頭に浮かんだのは“結果を残せずに申し訳ない”という思いだったんです。
その後大分に来て2年間、兼任コーチという立場で若い子たちを見ていたのですが、時間の使い方がもったいない選手が多いなと感じていました。今もう少しがむしゃらにやれば伸びるのになって。でも、若い頃の自分も周りからはそう見えていたのだろうし、年齢を重ねていろんな経験を経たからこそ、気付くことができた部分なのかもしれませんね」
今季限りで引退を決めたのも、指導者目線で野球を見るようになったことが大きいと話す。
「若い選手が練習で取り組んだことが試合でうまく出来ると、すごく喜びを感じるんです。次第に彼らのために費やす時間が長くなっていったし、いつの間にか自分が打てることよりも彼らの成長の方が嬉しくなっているのを自覚するようになった。そうした気持ちの変化もあって、プレーヤーとしてはここが一区切りなのかなと。
現時点での進路は未定なんです。ここ数年、横浜から大阪、大分と移籍が続いた状況で家族にも苦労をかけてきたので、しばらくは家庭を優先しつつ、将来のことをゆっくり考えていこうかなと思っています。僕は北海道生まれなので、大分ののんびりした土地柄が肌に合っていますし、娘と動物園に行ったりと、今まであまりできなかった生活を楽しんでいますよ」
パソコン画面の向こうにいる白崎さんは、明るい表情でそう語ってくれた。
チームが横浜DeNAベイスターズになったばかりのあの頃、背番号29が、背番号6が打席に立つと何かを期待せずにいられなかった。日本シリーズという最高の場面で描かれた放物線はただただ美しかった。バファローズへのトレードが決まった時、多くのファンが別れを惜しんだのは記憶に新しい。
“輝く歴史を その手で刻むため
君はここに現れた 時代のヒーロー”
この応援歌とともに、僕たちは白崎浩之のことを決して忘れない。
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