果たしてこの説明会で、どれだけの市民が納得したのだろう。出口で取材すると、
「洪水の原因になる盛り土は着工したら1、2年で終わってしまう。県の工事など待ってはいられません」
「私たちが見せられた安全という世界は、いったいいつの世界なんでしょうか。メディカルタウンの工事だけが進むなか、私たちはこれから長い年月、洪水に対し丸腰のまま放置されるのです」
と、市民たちは次々に不安を口にした。
識者も疑念……検証の手法は「適切とは言えない」
河川工学者で京都大学防災研究所の所長も務めた今本博健京都大学名誉教授に、この検証について感想を聞いた。
――今回は県の河川工事を検証条件に加え、その結果、下流域の浸水深は軽減すると説明されました。適切でしたか?
今本 適切とは言えません。理由としては、まず県の河川工事を条件に加えたことで、開発事業の影響がわかりにくくなったこと。また、そもそも治水への影響の判断材料に「浸水深」を使ったことが間違いです。本来なら「海老川の流量」によって判断されるべきです。
――検証の手法は適切でしたか?
今本 これも適切とは言えません。適切な検証のためには、正しい条件で数値シミュレーションが行われているか、その結果の解釈に問題はないかを、有識者による第三者委員会が検討する必要があります。また、検証方法などの詳細を記した報告書も一緒に公開されるべきです。
――他に問題点はありますか?
今本 最も不可解なのは事業地内の雨水対策です。説明会の資料によると、地上に降った雨を6つの調整池に集め、最後は1時間10㎜の雨に相当する量を河川に放流するとしています。しかし、河川が危険な状態にあれば放流はできません。その結果調整池は溢れ、水は河川に流れ込みます。この雨水対策は論理性を欠いた空虚なもので、このような計画に基づいた検証には到底納得できません。
しかし組合とフジタは、「検証の結果、この土地区画整理事業によって治水への影響が一定程度軽減されると、船橋市から説明された」と言って、説明会直後の8月29日、工事に着手した。危険と言われた計画を何一つ変えることなく。