1時間100㎜を超す雨が頻発している時代に、千葉県船橋市で危険な事業が進んでいる。松戸徹・船橋市長肝いりの都市計画「メディカルタウン構想」だ。町づくりの舞台は市の中心部を流れる二級河川、海老川の上流地区である。沿岸部の市街地からわずか2㎞ほど離れた所に奇跡のようにぽっかり残る、42.3haの広大な低湿地だ。
計画はここを全面盛り土で埋め立て、同地区内を走る東葉高速鉄道に新駅を造り、基幹病院を移転して、大商業施設やマンションが立ち並ぶ町をつくるというもの。
一見公共事業に見えるがそうではなく、約200人の地権者たちが作る法人「船橋市海老川上流地区土地区画整理組合」と、業務代行者の(株)フジタが行う私有地の開発(組合施行の土地区画整理事業)だ。
しかし地球温暖化で水害が激甚化するなか、この新しい町づくりに有識者と市民から待ったがかかっている。
(全2回中の1回目/後編を読む)
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市長肝いりの新しい町づくりに市民が反発
メディカルタウン構想は2016年、松戸徹市長が開発に意欲を示し、農家系地権者たちを説得して始めたものだ。
市は開発理由を「中心市街地に近く、東葉高速鉄道が走るなど交通の便が良いこと、耕作放棄地の小規模開発が進み、このままでは無秩序な市域が形成されてしまうこと」と説明する。
現時点で総事業費634億円のうち、約9割の558億円が市税でまかなわれる予定で、この多額の事業費を捻出するために、市は2019年から様々な事業や福祉サービスの見直しを進めている。
市長がこれほど肩入れする事業だが、治水の面から見ると、海老川上流地区は全面埋め立てるには危険な土地だ。なぜならこの広大な低湿地は、昔から豪雨の時は溢れた川の水や周辺台地から流れ込む水を受け入れ、流域を洪水から守ってきたからだ(こうした土地を遊水地という)。ここが埋め立てられると、豪雨の際、溜まる場所を失った濁流は、ストレートに下流域を直撃する。