球団の根底にある「出口戦略」
独立リーグ球団のほとんどが元NPBの選手を監督やコーチに据える一方、茨城球団は独自路線を歩んできた。
昨年までのチームで言うと、アメリカの独立リーグでプレー経験を持つ松坂賢が監督を務め、ダルビッシュ有(パドレス)や千賀滉大(メッツ)にも一目置かれる小山田拓夢がストレングス&コンディショニングコーチとして従事した。世間に名前が売れているわけではないが、知る人ぞ知るスペシャリストを配置し、緻密な面談と目標設定で選手を育てていく。
球団運営の根底にあるのは「出口戦略」だ。報酬が限られる独立リーグは長くいるべき場所ではない。だからこそ、選手をいかに高く羽ばたかせるか。それができればポテンシャルのある人材を惹きつけられると同時に、球団にとってビジネスの財源を生み出すことも可能になる。
例えば、元メジャーリーガーのセサル・バルガスはメキシコリーグ時代から3分の1になる報酬を受け入れて2021年、茨城にやって来た。そうして日本でアピールし、同年途中オリックスに移籍。年俸の大幅増を勝ち取った一方、茨城球団は移籍金を手にした。
限られた予算の中で、ステップアップの場として機能させるような球団経営、選手育成の戦略性に伊藤は惹かれ、ここなら自身の経験を活かせるのではと考えた。
「情報社会の今は“答えのようなもの”がたくさんある時代だから、選手たちは何が正しいのかと迷ってしまうと思います。それを判断する能力がないと、何の世界でもトップレベルとは戦えない。私が培ってきたのはマネジメント力と、聞き出す力です。選手たちが今あるベースを活かしながら、自分の考えを整理できるように並走するという意味で、このチームにフィットできると思います」
“凄腕”トレーナーとも提携
茨城球団の独特な運営に惹かれる人材は他にもいる。トレーナー界の“凄腕”として知られる北川雄介が、テクニカルアドバイザーとして協力することになった。
北川は東京都の四谷に「DIMENSIONING」という拠点を構え、選手の身体に触れながら施術し、フィジカルやメカニクスだけでなく精神面もアドバイスしてパフォーマンスアップにつなげるという独自の手法が評判を呼んでいる。年間40人のプロ野球選手を担当し、昨年ドラフト1位で楽天に指名された荘司康誠は立教大学時代から通った。
2022年育成4位でDeNAに指名された渡辺明貴が茨城球団所属時に個人指導していたこともあり、北川はアストロプラネッツに興味を持っていた。昨年10月、同球団が運営資金を求めてクラウドファンディングを行った際、北川は色川や監督、社長との食事権を3万円で購入。その際に意気投合し、「何か一緒にやろう」となってテクニカルアドバイザー就任に至った。
北川の施術は1回3万円で、茨城球団にフルタイムで雇える余裕はない。北川自身も1球団にコミットするより、希望して来る選手に対面、オンラインで指導するのが望ましいという意向を持つ。
そこで「DIMENSIONING」として茨城球団と契約し、対面では年に6回指導。球団からピックアップされた選手を中心に見ていき、オンラインミーティングにも参加する。
この方法なら北川の現状のやり方とほぼ同じで、球団のコーチやトレーナーと連携しながら選手を伸ばしていけるのではと考えている。色川は「北川さんの腕が絶対必要」とし、条件的に折り合えるラインを見つけた。
これまで個人的に独立リーガーを指導してきた北川にとっても、意欲的なチャレンジになる。
「根本的に、自分と関わる人がステージアップしていくことに僕も喜びを感じます。組織の中に入るのは体質的に合いませんが、アドバイザーとして関わらせてもらうことで自分の人生としても豊かになっていきたい」
伊藤が新監督、北川がテクニカルアドバイザーに就任する人事は、裏を返せば出ていく者がいるから実現した。昨年まで監督を務めた松坂はMLBで指導者になる夢を追いかけて旅立ち、ストレングス&コンディショニングコーチだった小山田は日本ハムに腕を買われた。
予算が限られるなか、どうすれば独立リーグとして存在感を放てるか。そうした挑戦心こそ茨城アストロプラネッツを光らせ、魅力的な人材を呼び込み、飛躍の場として機能させている。(敬称略)
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