「これが優勝するチームなんだ」と確信した試合
5日後の7月5日、熊本でのヤクルト戦は前年天王山対決でノーヒットノーランを食らった石井一久が相手。その石井に4回までまたノーヒットに抑え込まれて「もしや」の空気が漂ったものの、0対1の6回表に9安打で9点を奪いノックアウト。「あの借りを何年かかっても返していこうとみんなで話し合っているんです」と試合後の石井琢。前年のノーノーを現地で目に焼き付けた筆者は琢朗の執念に心を打たれた。
2度あることは3度も4度もある。7月12日、帯広での中日戦は9回表を終えて3対9。完全な負け試合だが、その裏に6安打で6点を挙げまさかの同点。延長12回日没コールド引き分けに持ち込んだ。高木由一打撃コーチも「恐ろしい打線だ。集中力がすごい」と半ば呆れるほどのマシンガン打線は、さらに7月15日の巨人戦で0対7の劣勢から7連打で6対7。突き放されても再度追いつき、8回には高橋由伸の3ランで9対12。それでも怯まず佐伯の「ボーク打ち直しホームラン」で12対12。最後は波留の二塁打でついに13対12のサヨナラ勝ち。権藤監督が口にした「物の怪に取り憑かれたよう」という名言は、この試合はもちろん短い間に繰り返された打線の驚異的な粘り強さを的確に言い表していた。
この「もののけ」の逆転劇を終えてベイスターズと2位中日のゲーム差は5。1964年以来34年ぶり(!)の前半戦首位ターンが確定した。6月に首位に立った時点では「どこまで持ちこたえられるか」とつとめて冷静にしていたけど、こんな試合を見せられたらもうたまらない。「これが優勝するチームなんだ」と確信めいたものが筆者の中に生まれ、この頃から世の中にも「横浜、優勝しちゃえよ!」というムードが流れ始めた。8月後半に中日に追い上げられたものの、結果的に1度も首位を明け渡すことなく、10月8日、甲子園で歓喜の瞬間を迎えたのである。
翻って25年後の2023年。シーズン序盤としては球団史上一とも言える勝ちっぷりのベイスターズは、この先どんな姿を見せてくれるだろう。三原脩、権藤博の次に三浦大輔の名が連なる日は、そう遠くないかもしれない。
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