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今まで聞いたことがなかったような理想のアーチ像

 若い選手たちにもう一つ、伝え続けたいことがある。「木と一緒。幹がしっかりしないと。みんな枝葉の部分をなんとかしようとしすぎる。まずはドカッと土台を作って、幹から葉を実らせないといけない。風が吹いても雨が降っても、揺るがない打撃スタイルを作って、そこから枝葉」と力説する。選手たちには10年先にも揺るがない軸となる打撃スタイルを確立して欲しいと願い、日々、工夫をこらしながらアドバイスを送る。

 そんな漢 村田コーチの理想のホームランとはどんなものか? 答えは瞬時に返ってきた。「それはスタンドのお客さんがとりやすい、優しいホームラン。みんなが思わず避けるようなライナーとかではなくて、フワッと上がって、スタンドにいる人、みんなが手を、空に向かって掲げるようなね。自分もキャリアハイのシーズンは、そんなイメージのホームランをよく打てた気がする。変化球を待っていながらストレートを反対方向に上手く反応しながら打てると、まさにそんな感じになるね」。これまで様々な打者が、様々な場面で理想のアーチを語ってきているが、これは今まで聞いたことがなかったような理想のアーチ像。これこそが漢 村田コーチの深さなのだろう。

 6月11日のカープ戦(ZOZOマリンスタジアム)で山口航輝外野手がプロ初の満塁本塁打を放った。変化球に手を出した直後。ストレートを強振。打球はあっという間にレフトスタンドに消えていった。まだ村田コーチがイメージする理想の打撃とまではいかないが、強い可能性を感じるホームランアーチスト候補のはずだ。

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「彼も身体の使い方が上手になればね。あと、インコースにもしっかりと逃げずに踏み込んでね。力む必要もない。150メートル飛ばさないとホームランにならないみたいな力みはいらない。極端な話、100メートルぐらいでいいんだから。ゴルフのドライバーも同じでしょ。おもいっきり振っても、ちょっと肩の力を抜いて振っても意外と距離は変わっていないよね」と期待をかける。

村田コーチ ©千葉ロッテマリーンズ

本と出会って、視野を広めた

 最後に少しだけ、グラウンドから離れた漢 村田コーチのエピソードを紹介する。最近、泣いた映画は『STAND BY ME ドラえもん2』である。「もちろん、1も見ましたよ。だけど、2の方が大人になってからの話だから。ハートにズキュンと突き刺さりましたね」と思い出し、涙が今にも出てきそうだ。漢が泣いた。一人、泣いた。ここでは映画のあらすじはあえて紹介しない。漢が泣いたことだけを紹介する。とにかく優しく、熱い漢なのだ。

 引退後は本も読むようになった。ジャイアンツの原辰徳監督から勧められたのは五輪書。宮本武蔵が著した兵法についての本を読んだ。「とても勉強になりました。それから色々な本を読むようになった。デール・カーネギーの本とかもね。ああ、禁煙セラピーの本も読んだかな(笑)」。漢 村田コーチは本と出会って、視野を広めた。努力に頂点はない。だから、次から次へと貪るように様々な分野の本に手を出した。「もっと早く出会っていたら人生変わっていただろうなという本が沢山あった」と目を輝かせる。今はコーチとして本を読んで気が付いたことを生かしている。

 みんなでワイワイと食事に行くのが好き。「飲みニケーションというからね」と笑う。ただ、いつも最後は野球の話をして盛り上がる。野球談議は延々と続き、「やっぱ、俺たちって野球が好きだな」の結論をもってお開きとなる。野球への情熱が心を動かす。

 6月16日からの交流戦最後のカードは横浜スタジアムでのベイスターズ3連戦となる。

 プロの第一歩を踏み出したスタジアムであり、ここで147本のアーチを放った。この数字は横浜スタジアムトップだ(2位は筒香嘉智の121本)。きっとスタンドのファンが思わず手を出したくなる本塁打を何本も生み出したことだろう。この思い出の地で手塩に掛けて育てているマリーンズの選手たちの躍動する姿を楽しみにしている。漢 村田コーチが横浜スタジアムに凱旋する。

村田コーチと角中勝也 ©千葉ロッテマリーンズ

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