季節は巡って夏になった。春に順調なスタートを切った吉井理人監督率いる新生マリーンズは白星を積み重ね、汗ばむ陽気となった今、虎視眈々と秋には頂点に立つことを目指し、着実に歩みを進めている。

 今回はマリーンズを指揮する吉井監督の前半戦の語録を紹介しながら、吉井流の考え方、マネジメントに触れてもらえたらと思う。

吉井理人監督 ©千葉ロッテマリーンズ

記念すべき初勝利のウィニングボールを受け取って……

「準備はいいですか。戦いの始まりじゃ。では、おのおの抜かりなく。いくぞ!」

ADVERTISEMENT

 3月31日、福岡でのホークスとの開幕試合前にベンチ裏サロンに選手を集めた際のメッセージだ。

「なにを話そうかと。なるべくシンプルがいいよなとあれこれ考えていたら、ほぼ寝れなかった」と吉井監督。

 考えた結果、大好きだった16年に放送されたNHK大河ドラマ「真田丸」の有名な台詞を引用した。真田軍が徳川の大軍に挑んだ上田合戦のシーンでの真田昌幸の言葉だ。ただ、若い選手たちにはあまりピンとこなかったようで、選手たちはちょっとだけ笑いながら、「オー!」と応えたものの、吉井監督が求めていたような大爆笑というようなリアクションには至らず、「あんまりウケなかったなあ。なにがあかんかったかなあ。もっと最近のドラマのセリフの方がよかったんかなあ」と頭をかいた。

「きょうからピッチャーで勝負しようか!」

 開幕3番でスタートしたものの、なかなか結果が出ずに落ち込んでいた山口航輝外野手にシーズン序盤にかけた言葉だ。高校時代は4番ピッチャーだったとはいえ、唐突な第一声にちょっと驚いた表情を見せた山口は「いやバッターをやらせてください!」と笑いながらも慌てて返答した。これで悩める若者の気持ちは和らぎ、肩の力が抜け、少しずつ本来の姿を取り戻していく。

「ウィニングボールはこの辺に置いといて」

 まさかの開幕3連敗を喫して本拠地に戦いの場を移して迎えたファイターズ3連戦の初戦(4月4日)。マリーンズは今季初勝利を挙げ、吉井監督にとっても記念すべき初勝利となった。ウィニングボールを受け取ると、気恥ずかしそうな表情を浮かべ、監督室に戻って阿部和成マネージャーから置き場を問われた際にそう答えた。ボールは今でも監督室にポツンと置かれている。記録等にあまり執着がなく、現役時代の記念品もほとんど自宅にはないという。あえて置いてあるのはメジャーでプロ1号本塁打を放った際のボールと「ぜひ受け取ってください」と佐々木朗希投手からプレゼントされた完全試合の試合球(ウィニングボールではない)だけ。

 ただ悔やんでいることはある。「今、思うとメジャー初盗塁の際の二塁ベースももらっておけばよかったなあ。だって、あれが日本人初盗塁。いい記念やったなあ」と吉井監督。エンゼルスの大谷翔平投手が今年、大リーグ日本選手通算1000盗塁を記録したことでニュースとなったが、日本選手最初の盗塁はピッチャーだった吉井監督。ロッキーズ在籍時の00年6月24日、ダイヤモンドバックス戦の五回に通算303勝でサイ・ヤング賞5度のランディ・ジョンソンから記録した二盗である。

「なんでも名前が残るのはうれしいこと。これからもじゃんじゃん大谷には走ってもらって、記録がでるたびに『最初は吉井のおっちゃんやで』と出てくれたら嬉しい」と喜んでいた。

WBCで大谷翔平がウェートをする姿を見て……

「家では猫と一緒に寝ています。自分も猫の気分になって一緒に寝るのがいいリフレッシュ」

 交流戦前、メディアから、家ではどのようにリラックスしているかを問われた際の答え。「負けたら悔しくて寝れないし、勝ったら、興奮して寝れない。いつも次の試合、どうしようかなど考えてしまう。野球のことしか考えていない日々」という吉井監督。

 そんな指揮官の癒しは2匹の愛猫とリビングで戯れる時間。自宅近くの駐車場に捨てられていた雑種の猫をかわいそうだからと拾って育てた雄の黒猫。そしてもう一匹は雌のアメリカンショートヘア。この2匹の猫ちゃんがプロ野球監督という激務を支えている存在と言える。ちなみに今シーズンは開幕から毎試合、違う打順を組んだことからメディアの間では猫の目打線と注目を集めている。

「美容と健康のためにやっています」

 1日1時間以上かけて週6回ほどウェートトレーニングを行っている吉井監督が、その理由を聞かれた時の回答。侍ジャパン投手コーチとして参加をしたWBC期間中には大谷翔平投手がウェートをする姿を見て「腕の筋肉がワシの倍ぐらいあった。野球では負けるけど筋肉量では負けたくない」と58歳にして闘志を燃やすほど。

 まず1日目は下半身と肩。2日目が背中と腕の三頭筋。3日目が胸と腹筋、そして腕の二頭筋。4日目が休日というローテーションを繰り返す。やりすぎた時は2連休をとることもある。全国チェーンのジムの会員となり遠征先などでもしっかりとトレーニング場所を確保し、初めて訪れる地ではまずウェートが出来るジムが近くにあるのかないのか探すほど。

 ただ、そうは言っても球場ウェート場では選手たちとの他愛もない会話を大事にしている節もある。一緒に汗を流しながら前日の試合の事を聞いたり、コンディションを確認する。グラウンドでは聞けなかった話もウェート場だったら選手は口を開いてくれるなど、発見もある。同じ空間で、筋肉を鍛えるという目標を共にしながらコミュニケーションをとることで、選手との距離が縮まっていく。