少し嬉しくなった控え目な「デスターシャ!」
2015年12月に球団創設5周年目を迎えた際、ベイスターズの取り組みとして神奈川県内の小学校、幼稚園、保育所などに通う72万人の子供たちに球団のベースボールキャップがプレゼントされました。当時小学校4年生、野球に夢中になっていく年齢でベイスターズの野球帽を手にした子供たちは、今高校3年生。心のどこかで、ずっとベイスターズを気に留めてくれたのかもと想像が広がります。
神奈川大会の試合中、思わず笑みが浮かんでしまう場面も見つけました。優勝した慶應義塾高校が、ホームランを打った選手をベンチ内で控え目に囲んで、あの「デスターシャ!」を行っていたのです。もし派手なパフォーマンスと解釈されてしまうと、お叱りを受ける高校野球ですから、ベンチ内に向けた実に控え目な「デスターシャ!」です。
思えば2008年、90回記念大会のため南北に分かれた北神奈川決勝、大田泰示主将が率いる東海大相模に勝利し甲子園出場を果たしたのも慶應義塾高校。この年のメンバーに決勝戦の感想を取材した際「プロ野球でも一杯にはならない横浜スタジアムで、満員の観客から声援を受け戦えたのは幸せ」という答えがありました。そう、当時は満員札止めとなった横浜スタジアムの観衆に包まれ野球ができるのは、夏の甲子園出場がかかった大一番に進んだチームだけだったのです。
時を経て、ベイスターズが誇るホームランパフォーマンスに大観衆が応える光景は今の高校球児を惹きつけるのだと感じ、少し嬉しくなりました。
「高校3年で迎えた大一番だから、見届けてあげたくて」
グラウンドの選手たちだけでなくスタンドからもベイスターズの空気を感じました。今年は声出しの応援が戻り、吹奏楽も音量がアップする中、神奈川大会では攻撃時にベイスターズの応援曲「チャンステーマ」を奏でる学校が確実に増えたと気づきます。吹奏楽部員や応援団にとってもベイスターズの応援と盛り上がりは、レパートリーに加えたい魅力にあふれているのですね。
放送は片方の高校に偏りませんが、ベイスターズの「チャンステーマ」を耳にすると実況中の私も元気が湧きます。
びっくりしたこともありました。サーティーフォー保土ケ谷球場の放送席はスタンドの上部に仮設されているのですが、7月10日の2回戦、東海大相模対湘南学院の試合を実況中、ふと左斜め下に視線をやると何と山﨑康晃投手がいたのです。後で伺ったところ、湘南学院のメンバーとしてチームスタッフの長男が頑張っており、山﨑投手は小学生の頃から彼を可愛がっていました。「高校3年で迎えた大一番だから、見届けてあげたくて」と倉敷でのタイガース戦を控えた移動の前に保土ケ谷に立ち寄ったのです。試合は接戦となり、湘南学院はあと一歩まで優勝候補を追い詰めましたが7対5で惜敗。
山﨑投手は「今は気持ちの整理がつかないくらい悔しいでしょうね。少し落ち着いたら頑張ったね、と伝えます。良い試合でした」と。その表情は、6月23日に選手会の活動として小学校を訪問し子供たちと夢について語り合った時と同じ様に、輝いていました。
山﨑投手には誰かに寄り添い元気づける天賦の才があります。示す姿勢は自身の好不調に左右されることなく、ブルペンで仲間を送り出す時にも発揮されています。
かつて先輩方から 高校野球とプロ野球の実況は違うと教えられました。レベルはもちろん取り巻く状況や戦い方は、確かに違います。でも今のベイスターズが「決して諦めず、この試合に勝つ」ことを目指す姿には、相通じる熱さを感じるのも事実。猛暑にも折れない心で差し込む光を辿る8月、日々トーナメント戦の様な一期一会の戦いを存分に伝えられたらと願っています。
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