オールスターを終え、後半戦再開を目前に控えた7月21日。ベルーナドームで行われた日本ハムとの二軍戦で、一瞬耳を疑う場内アナウンスが流れた。
「セカンドの佐藤龍世がキャッチャーに入ります。キャッチャー・佐藤龍世」
佐藤龍世。今年でプロ入り5年目を迎えた内野のユーティリティプレーヤーで、2019年に富士大学からドラフト7位で西武に入団。しかし2021年8月に一度トレードで日本ハムへ移籍。新庄剛志監督から「ペッパー師匠」という愛称を賜ったが、昨年オフに再びトレードでライオンズへ戻ってきたというなかなか稀有なプレーヤーだ。
今シーズンは高校時代にマスクをかぶった経験があることで、第3捕手として捕手練習にも参加しているが、もちろん本職のキャッチャーではない。
そんな彼が見せた捕手姿に、私は心を奪われた。
1球ごと丁寧に繰り返す、低めを意識させるジェスチャー。ワンバウンドを止めるブロッキング。そしてイニング間にはブルペンに行き、次に投げる投手のボールを受ける。どのボールが使えるのかを直に確かめるためにだ。
そんな立ち振る舞いからは「急造の第3捕手だから」という言い訳を自らに許すことのない、プロフェッショナルとしての気概を強く感じさせられた。
この1勝を掴むために――。
日頃からベンチでは、バッテリーコーチと配球の話をしていると龍世と同期入団の山野辺翔から聞いたことがある。常に実戦をしっかり意識し、準備しているからこそ、この日の捕手・龍世があるのだと思った。
「プロなんか諦めろ!」の真意
こう言っては失礼だが、見た目のチャラさと、過去にスピード違反で謹慎処分を受けたことも手伝って、龍世=“やんちゃ”な印象を持っている方も多いと思う。
しかし、ナイターでも必ず昼前には球場入りし、室内練習場での打撃練習は欠かさない。全体練習では守備練習に多く時間をとることと、グラウンドでの打撃練習では把握しきれない自身の打撃の状態や、修正ポイントを確認する意味合いも含まれているという。
スタメンだろうが、ベンチスタートだろうが、チームの勝利のために日々の準備を怠らない。どんな努力も惜しまない野球に実直な男・佐藤龍世。見た目とのギャップも相まって、気がつけば、そんな彼に強く引き込まれていた。
しかし、よく考えると、私は彼のことを何も知らない。野球に実直な男のルーツに触れてみたい。そこで、プロ入り前の富士大学時代に指導を受けた恩師で、現在は神奈川県の武相高校で、甲子園を目指す豊田圭史監督を訪ねることにした。
聞けば、龍世をスカウトしたのは他ならぬ豊田監督だったという。
「(高校の支部予選は)1回戦ですぐ負けちゃったんですが、その時にみて『この子いいな』と。元気があって、今時には珍しくガッツもあるし、僕の好きなタイプの選手でしたね」
元気があって、ガッツがある。イメージ通りだが、それだけではないものを豊田監督は感じた。
「大体一般の人って、ピッチャーをずっと見ると思います。でも龍世が守っていると、彼を見ている人が多いくらい人の目を惹きつける。いい意味でも悪い意味でも目立つんですよね。元気もあるし、人を笑顔にする雰囲気を持っていましたね」
自らスカウトした才能を開花させるべく、豊田監督は龍世を1年生から起用する。龍世もそれに応えて、チームの主軸として成長して行った。
しかし、大学4年の北東北大学春季リーグ戦で大きな壁にぶつかった。極度の打撃不振に陥ったのだ。
「プロ志望を表明したあとって、どの選手も大体打てなくなるんです。スカウトが見にきていたりすると打てない。そこで『ずっと打てねぇじゃねえか。チームの勝ちが最優先、今のままだったらプロなんか諦めろ。それでも(プロ入りを)貫き通すなら結果だせ!』って言い続けましたね」