文化放送ライオンズナイターの看板解説者の一人、東尾修さん。ライオンズをこよなく愛し、その愛故に時には選手たちに厳しいことばも発する、そんな東尾さんが中継内で目を細める選手がいます。入団2年目の古賀悠斗選手です。

  東尾さんは「古賀には意外性があるというか、何か打席でやってくれる気がするんだよね」と話し、解説する際はその試合のキープレーヤーに名前を挙げます。その期待を知ってか知らずか、東尾さんが解説時の試合で古賀選手の打率は3割を超えています。「東尾さんに愛され、その愛に応える男」、それが古賀悠斗選手なのです。

古賀悠斗 ©時事通信社

強肩をウリに入団したが……

 主戦捕手だった森友哉選手がオリックスに移籍した後、熾烈となっている正捕手争い。その中で古賀選手はチャンスをモノにしてきています。強肩を売りにして入団2年目、入団同期の隅田知一郎投手、佐藤隼輔投手とともに、着実に成長しています。

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 今シーズンの古賀選手は6月以降スタメンマスクも増え、盗塁阻止率もここまで.406(9/24時点、今季の成績は以下同)と、60試合以上スタメン出場している捕手の中ではリーグトップ。打率も.212と、ルーキーイヤーの去年よりもアップしています。

 取材対応も誠実です。中継の取材でいろいろな選手に話を聞きますが、キャッチャーはあまり口数が多くない方が多いです。古賀選手も多弁な方ではないのですが、練習後で疲れているであろう時も、質問にはよく考えたあとしっかりとこちらに顔を向け、目を見て答えてくれます。以前も書きましたが、気弱な私は人に質問することがあまり得意ではありません。それだけに誠実な対応をされると応援せずにはいられないのです。

 今シーズンは数字面も含め全てにおいて進歩している古賀選手ですが、1年目はプロの厳しさに直面しました。ルーキーイヤーは26試合に出場しましたが、14回企図された盗塁を1度も刺すことができなかったのです。

 盗塁阻止率.000。古賀選手からするとショッキングで屈辱的な結果でした。

「ショックで仕方がなかった。それ(強肩)をウリにしてプロの世界に飛び込んできたので、一つも刺せないとは思っていなかった。それがゼロなのはけっこうショックだった」

 昨シーズンについて振り返った古賀選手は、原因をこう分析しました。

「盗塁を企図されてからの動き出し、投球をする前からの動き、送球の安定感。ピッチャーが構えて、ランナーが走ってピッチャーが投げたら動き出さないといけないが、自分は投球を捕ってから動き始めていた。ランナーは投げた瞬間に走り出す。それを見てパッと身体を半身に引いて二塁送球に備える動きができていなかった。ほんのちょっとのことだがそれがアウトかセーフの瀬戸際になってくる。学生時代はその動きができていたと思うが、プロの投手になるとブロッキングもしないといけないし、それらの動きも含めた要領、そこが100%捕球になってしまっていた」

スローイング改善の要因

 課題が明確になった古賀選手、今シーズンはキャンプから課題克服に専念。オープン戦の盗塁阻止率は.571と企図された盗塁の半分以上を刺し「盗塁が来た時の動き出し、送球の安定性を意識して練習したが、ここまではスローイングに移る前の動きをスムーズにできている」と手応えを感じていました。

 古賀選手は盗塁阻止率が飛躍的に向上した要因をこう話しました。

「送球の精度が良くなり、アウトになる確率が高くなるところに送球できている。単に送球だけでなく、投げるまでの全ての動作がスムーズにいっている結果。キャンプからやってきたことが実になっている」

 送球までの一連の動作が流れるようにスムーズになっていて、私も中継中に放送席やレポーター席から見て、「ずいぶんスピードアップしたな」と感じます。去年身をもって感じた課題をしっかりと克服し、ライオンズの「扇の要」として着実に成長しています。

 ピッチャーとのコミュニケーションも頻繁に取っています。中継レポーターで三塁側のカメラマン席から見ていると、試合中も自分より年上の先発ピッチャーともよく話すシーンが見られます。その姿からは「ピッチャーを引っ張ろう」という強い思いが感じられます。

「いつでも刺してやる」という心構え

 野田浩輔バッテリーコーチは今シーズンの古賀選手について「まずずっと試合に出られる体力がついてきたのではないか。勝負事なので勝ったり負けたりはあるが、安定してピッチャーを引っ張ってくれている」と好評価をしています。野田コーチは盗塁阻止についての心構えについてこう話していました。

「『あっ走った』ではダメで『よっしゃ、来た!』でないといけない。『走るだろう』と思ってからが準備。『走った』という反応でやるものではない。『ここは来るな、よし来た!』です。心構えの部分で『やっぱり来たね』で刺さないと。『こっちは準備していましたよ』というふうにして欲しい」

 この心構えについて古賀選手に聞くと、「ランナーが出た時は『走るかもしれない、走りそうだ』ではなく、『いつでも走ってこい! いつでも刺してやる』という気持ちでいる」と心の準備をしているとのことです。

 人生において「心の準備」は必要です。身体を動かすのは心です。私も大学受験や就職活動など、人生の節目で痛い目に遭うたびにそう痛感しました。心の準備をして自分に自信をつけておくためには綿密な準備や練習が必要――野田コーチや古賀選手の話を聞いて、改めて感じました。

 私は中学時代の3年間野球部に所属し、部活レベルではありますが野球に打ち込みました。中学時代はその年頃にしては大柄だったこともあり、キャッチャーの練習もしていました。

 私はキャッチャーに漠然とですが憧れがあり、正捕手として「背番号2」のユニフォームを着られたら……と思いましたが、やはり甘くはありません。まずキャッチャーはずっとしゃがんでいる、これが大変でした。あとは捕球に返球、送球の動作。中学時代の自分にまだリードの概念はなく、ボールを受けるので精一杯。「キャッチャーは大変だ」と、中学の部活レベルの段階で感じたものでした。

 今はプロ野球を取材し伝える立場になり、キャッチャーの重要さ・大変さがよくわかります。子どもの頃はキャッチャーで打てる選手があまりおらず「何でキャッチャーってこんなにも打率が低かったりホームラン打たないんだろう」と思っていましたが、これだけやることが多く頭も使うとなると、打の方まで回らないのもよくわかります。

 それだけに「打てる捕手」には驚愕です。古くは三冠王に輝いた野村克也さんに始まり、古田敦也さんやホークスで活躍された城島健司さん、巨人の阿部慎之助ヘッドコーチ、そして森友哉選手。森選手がかつてライオンズの優勝会見で「キャッチャーとバッターは別の種目だと思ってやっています」と話していましたが、頷けます。

日々、新たな発見がある

 今シーズンになってスタメンマスクが増えてきた古賀選手ですが、そんな現在を「いろいろ精一杯の状態」と話します。ただし、そう語る顔には笑みが浮かんでいました。

「レギュラーで出ると試合の中でたくさんやることがあるが、それを苦だとは思わない。それが今自分が置かれている立場だし、ポジション的にもやりがいがある。日々新たな発見がある。全てマイナス思考にならずに前向きにいきたい」

 そう! その前向きさ、プラス思考! おじさんも見習いたい!

 最近は複数の捕手を併用するチームが多くなってきましたが、野田バッテリーコーチは「もともと西武ライオンズは、正捕手がいて二番手・三番手がしっかりしているチーム。軸がしっかりしている方がチームとしては有り難い」と話します。

「獅子の扇の要」になるべく奮闘を続ける古賀選手。これからも東尾さんのみならず、ライオンズファンをもっと喜ばせて下さい!

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