最後のバッター、有薗直輝がライトフライを打ち上げゲームセット。楽天25回戦(楽天モバイルパーク)は3対5の負けだった。試合序盤、田宮裕涼の適時打などでリードを奪うも、楽天・浅村栄斗の26号ソロを皮切りに試合をひっくり返され、尻つぼみに終わってしまった。有薗は今季初昇格・即4番抜擢で5打数4三振ノーヒット。さすがに4番は家賃が高かった(「家賃が高い」は相撲から来た言葉。実力以上の地位に上がり、負けが込むこと)。まぁ、「思い切って行け(身になるから恥をかいて来い)」という起用だ。勝敗度外視。全打席マン振りの三振でいいかなと思ってたから、浅いライトフライはむしろ不満だった。

「おい、当てるんかーい!」

 真夏の鎌ケ谷で見てるときは、仲間の誰かが「有薗キャンプ……」「有薗ダイヤモンドバックス……」と駄ジャレを言って、皆、暑すぎて無反応というのが常だった。有薗直輝、まだまだ道は遠い。だけど、オレたちずーっと見てるからさ。その遠い道のりは大勢のファンがつき合ってるんだよ。

ADVERTISEMENT

記録上、48年ぶりの弱さなのだ

 ファイターズの2023年全日程が終了した。記念すべきエスコン元年のシーズンは60勝82敗1分の最下位だった。新庄政権下の「2年連続最下位」は球団史上48年ぶり。えのきどは昔からハムを見ていて、暗黒時代もよく知ってるだろうと思われるかもしれないが、前回「2年連続最下位」になったのは球団創設の1974、75年だ。さすがの僕もまだ中学生だ。はるか遠い記憶の彼方に「弱すぎて、逆に気になって応援してしまったファイターズ」が存在する。新聞のスポーツ面を開くたび、だいたい負けていた。

 当時は父の仕事の関係で福岡県久留米市に住んでたから、太平洋クラブライオンズ戦のラジオ中継があった。平和台球場にファイターズが来たときはRKB毎日放送、KBC九州朝日放送のどちらかに合わせて聴き入った。やっぱりだいたい負けていた。

 だから今、僕が北海道の中学生だとして「だいたい負けてるなー」という印象を持つのだと思う。そして今季最終戦、143試合目も負けた。福田俊の「29試合連続無失点(球団タイ)」、野村佑希の「シーズン100安打達成」など、ファンの見どころはあったけれど、82敗目は82敗目だ。試合が壊れだすと歯止めがきかない。四死球、エラーの連鎖。この試合も5回のビッグイニングはどこかで止められなかったかと思う。まぁ、仕方がない。記録上、48年ぶりの弱さなのだ。弱いから自信がない。弱いからミスが連鎖する。

浅村が根本悠楓の球を軽々とレフトに放り込んだときの、万波の顔が忘れられない

 小雨降る楽天モバイルパーク、あれだけ暑かった夏が行ってしまった。CS出場権の獲得に燃えるイーグルスファンと違って、ファイターズファンの夢はただ一点に集約されていた。

 万波中正のホームラン。

万波中正 ©時事通信社

 マンチュウにホームラン王を獲らせたい。楽天25回戦、試合前の時点でポランコが26本で一歩リードし、浅村栄斗、近藤健介、万波中正が25本で追う形だった。残り試合はロッテ3、楽天3、ソフトバンク2、日本ハム1。つまり、この最終戦で少なくとも1本ホームランをかっ飛ばさない限り、万波の戴冠はない。

 2番万波(この日は100安打達成のかかる野村が1番だった)は初回第1打席こそレフト前へクリーンヒットを放ったが、その後、音無し。この日の楽パは珍しくレフトへ風が吹いており、普段とは違って右打者有利な条件だった。高々と打ち上げさえすれば風が運んでくれる。そんなの僕が思ってたくらいだから、万波にわからないはずはない。が、うまく行かなかった。重圧のなかで力が出せなかったとも言えるし、技術がなかったとも言える。

 僕は4回裏、浅村が根本悠楓の球を軽々とレフトに放り込んだときの、万波の顔が忘れられない。カメラが抜いていたのだ。守備位置からレフトの方を見やり、とても明るい顔をした。顔をしかめるとかため息をつくとか、そういうネガティブなものの混じらない、純度100の明るい顔をした。ああ、マンチュウは面倒くさいものは何もないヤツなんだなと思う。心のさっぱりした男。「浅村さん、さすがだなー」、間違いなくそう思った顔だ。どうかすると自分が浅村とホームラン王を争ってることを忘れて、「浅村さん、すげぇなー」と思っていそうだった。