DMで交わした、将来の約束
2021年10月11日。西日本工業大学の隅田は西武、広島、巨人、ヤクルトの4球団から1位指名を受けた。この年、最も多くの指名を受けた選手となった。中央大学の古賀は3位指名。2人の運命がつながった瞬間だった。隅田は当時をこう振り返る。
「今も覚えていますよ。僕はドラ1だったけど、そこまでの選手じゃなかった。6月の大学選手権に出場して、いつの間にか『え、ドラ1ですか?』みたいな。古賀のことはずっと知っていて、間違いなく大学ナンバーワン捕手だと思っていました」
ドラフトの翌日、古賀のSNSをフォローした。ダイレクトメッセージ(DM)でやりとりをする中で、こう伝えた。
「いずれは、日本を代表するバッテリーになろう」
その思いはずっと変わらない。昨季、古賀の開幕2軍が決まったときも、隅田は「絶対に1軍で組もうな」と伝えている。
その言葉を古賀は忘れない。そして、心遣いに感謝の念を抱いている。
プロ入り最初の目標は「感謝」
古賀はやんちゃで、おちゃらけキャラな一面がある。だが、一方で、誰にも負けないくらい「相手を思う」心を持つ。
ファンの方は覚えているだろうか。新入団選手発表会で、各選手が色紙に「抱負」を書いたときのことを。「新人王」「首位打者」など、それぞれに高い目標を記した中、古賀が書いた言葉は「感謝」だった。
目標が感謝? その意味を筆者は古賀に聞いたことがある。
「感謝、と口で言うのは簡単ですけど、思い続けることって難しいなと思う。たとえばグラウンド整備をしてくださる人。その場でありがとうございますって言うのは当たり前なんですけど。朝、僕が目覚めてグラウンドに出た時には、もう整備されている。これって当たり前ではない。その方たちがやってくださるおかげなんです。そういう感謝の気持ちを忘れて野球をやることほど、失礼なことはないと思うんです」
親、お姉ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、これまで教わった歴代の指導者や先生、高校で捕手転向後、基本をたたき込んでくれた先輩……。様々な人への感謝の思いを、古賀はことあるごとに口にする。
そんな方々とは少し、意味合いは違うかもしれない。ただ、間違いなく、古賀は隅田にも感謝の気持ちを持っているのだ。
だから、10勝目をつけてやれなくて悔しかった。筆者はシーズン終了後、古賀に「1年間、お疲れ様」とともに「隅田の10勝、惜しかったね」とLINEを送った。返事は短く「自分の責任です……」だった。
隅田は言う。「まだまだ、お互いに勝負を急いじゃうところはあるし、大事なところで慎重になりすぎるところもある。でも、勢いのあるバッテリーにはなってきているかなって思います」
研究熱心な姿勢、強肩で首脳陣や先輩からの信頼を少しずつ積み上げている古賀。昨季なら交代だった場面でも続投となり、チームの「勝敗」を託されるようになった隅田。
ドラフト直後の約束達成へ。一気に前進とは言わないが、着実に歩を進めた2023年だった。
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