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裸眼観戦して起こった身体の変化

 東京ドームで行われた巨人戦で、私は裸眼観戦を決行した。

 席に着き、グラウンドをぼんやりと眺めてみるが、視力0.1の私にはほとんど何も見えなかった。

「今ってどっちが攻めてます?」

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 思わず野球素人のような質問を口にしてしまうほどだった。チケット代を無駄にしたような気持ちになり呆然としていたが、次第に私の身体に変化が起こっていった。脳が視覚の低下を補おうとしたのか、聴覚が大幅にアップ。いつもより周囲の声がはっきり聞こえてくるような気がした。

 後ろの席では学生らしき女性2人組が「小林君見つけた!」「尚輝!!」「3度の飯より大城卓三!」

 と互いに囁き合う声が聞こえてきた。

 隣に座る若いサラリーマン風の男性は「この選手、登場曲がBTSだから大好き!」「プレモルの売り子、超かわいい!」などとはしゃいでいた。

 有益な情報こそ何一つ得られなかったものの、視覚以外の五感が研ぎ澄まされ、普段では聞き漏らすような言葉までもがはっきりと聞こえてきた。

 五感の高まりとともに鋭さを増したのが直感力であった。五感の刺激により集中力が異常なまでに発揮され、ひらめきが冴え渡った。事実私は、隣に座る若者が次にどこの銘柄のビールを注文するのかを百発百中で言い当てた。

原監督がコンタクトレンズを付けなかった本当の理由

 原がコンタクトレンズを付けずに采配したことが報じられると「大事な時になにをやっているんだ?」「ふざけてるのか」と批判や嘲笑の声が一部で上がっていた。ファンの目にはその行動はあまりにも突飛なことに感じられたことだろう。

 しかし私自身が裸眼観戦した結果、原がどんな意図でコンタクトレンズを付けなかったのかがわかった気がした。

 己の直感力を高め、勝負勘を発揮するためだったのだ。巨人軍最多勝利監督の名もすたる2年連続Bクラスの危機。そんなピンチに原が藁にもすがる思いで頼ったものが己の勝負勘だった。

 人に笑われようが、批判されようが、今できることを全部やってみる……とにかく勝つために、原は自分の信じた行動を取ったにすぎなかったのだ。

阿部監督に継承された原の裸眼魂

 2024年。阿部新監督は「新風」をチームスローガンに、原野球を払拭するような野球を繰り広げている。キャッチャーにこだわり、打撃よりも守備を重視。バントを多用していた。阿部野球からは原の面影はほとんど感じられなかった。

 しかし、批判を恐れず己のやりたい野球を貫こうとする阿部の姿勢からは、原から受けた影響を感じずにはいられなかった。笑われようが批判されようが……己のスタイルを貫いた原の“裸眼魂”はしっかりと阿部へ継承されているのだろう。

 常に無難で安全な道を選択し、周りと摩擦を起こさないようにする生き方はたしかに楽だ。しかしそれで満足度の高い人生を歩むことはできるだろうか。誰が何と言おうと自分の信念を貫く……原や阿部の戦いに影響されて、私もそんな生き方をしていこうと誓ったのであった。たとえそれが達川の落としたコンタクトレンズを見つけるくらい難しいことだったとしても。

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