日経平均が5万円を突破し企業収益が回復しているはずなのに、なぜ私たちの暮らしは楽にならないのだろうか。『株高不況』(青春新書)より一部抜粋し、私たちの暮らしを改善する方法をお届けする。(全3回の3回目/第1回を読む、第2回を読む)
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「株高不況」はいつまで続く?
ここまでをまとめると、「株高不況」とも言うべき状況は、企業が稼いでも、その恩恵が株価上昇と配当の受け取りという形で株主に偏り、労働者への還元が後回しにされたことがまず主因としてあって、そこにインフレが襲来したことで、株高と生活実感の悪化が併存した、こう整理することができます。
1章で見たように株価の上昇それ自体は、企業収益や名目GDPに照らし合わせて整合的であり、「実態を伴っている」と言えます。
「株価は金融緩和で押し上げられただけ」などという声もありますが、そうであるならばPERは著しく上昇しているはずですが、ここ数年のPERは直近10年平均よりも低いくらいです。したがって1990年代前半のようなバブル崩壊が再来する可能性は低いと判断されます。
賃金については、3年連続ではっきりとした上昇を遂げており、2024年以降は1990年代前半と同等の賃上げ率が実現し、新卒初任給が30万円を超える企業が増えるなど、前向きな動きも見られるようになってきました。
しかしながら、労働分配率はなお低下傾向にあり、労働者を取り巻く環境の改善は限定的です。賃金改定は基本的に年に1度ですから、「株高不況」とも言うべき状況が是正されるには年単位の時間を要すると見込まれます。
また、賃金上昇だけで全てが解決するとは限らないのが経済の難しいところです。賃金上昇によって、経済活動の質が高まらない場合、労働コストの増加分が価格に転嫁され、同分の物価上昇を引き起こしてしまい、消費者の生活実感がさらに悪化することも考えられるからです。
ちなみに、欧米において「賃金インフレ」と言えば、賃金の「過度」な上昇を示す意味で使われます。約30年も賃上げがなかった日本では「理由は何でもいいからとにかく賃上げを」といった風潮があり、賃上げの質を問う声は現時点で限定的です。
ただし、もう数年この賃上げが続いた時に「賃金は上がったけど、物価はもっと上がった」と「あちらを立てればこちらが立たず」の状況になっている可能性は相応にあります。





