10月28日、将棋界の勢力図が動いた。伊藤匠叡王(23)が藤井聡太七冠(23)に王座戦第五局で勝利し王座を獲得、これで叡王と合わせ二冠となった。

 2人は同学年で、幼少期からよく対戦していた。小学3年生の時の大会では、敗れた藤井が号泣したことで、伊藤は「藤井を泣かせた男」とも言われる。

 伊藤のプロ入りは2020年で、この年に史上最年少でタイトル奪取した藤井には後れをとったが、2024年の叡王戦で「藤井の八冠独占を崩した男」として名を売る。そして今回、「藤井から二度タイトルを奪った男」にステップアップを果たした。(取材・構成 大川慎太郎)

伊藤匠二冠と藤井聡太六冠は同学年。小学3年生の時の大会では、敗れた藤井氏が号泣したことから、伊藤二冠は「藤井を泣かせた男」とも言われる ©文藝春秋

第一局は完敗だった

 ――藤井六冠との王座戦を振り返りたいと思います。まず、第一局は海外対局で、シンガポールで行われました。結果は伊藤さんの完敗。厳しい内容でした。

 伊藤 本当につまらないミスをしてしまいました。その後の進行自体は全く見えていなかったわけではなかったのに安易に指してしまったことが、判断の甘さだなと。開幕戦の早い段階で形勢に差がついてしまい、不安が残る内容でしたね。

 ――第二局に臨むにあたって、やるべき準備は変わらなかったですか。

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 伊藤 第二局は後手番でした。後手では今まで指してこなかったような工夫を見せるつもりだったので楽しみな気持ちもありました。ただ作戦面にばかり気合が入って、将棋の内容がやや崩れてしまうきらいもあるので、不安は残りました。

 ――今期の王座戦の後手番では、いわゆる定跡形は指しませんでしたね。

 伊藤 はい。深く研究したような手ではなくて、いくつかあったアイデアを序盤で試してみました。今回は藤井さんとの対戦自体がかなり久しぶりでしたから、特に後手番は、定跡を突き詰めきれていなかったんです。やっぱり藤井さんのようなスペシャリストと当たる機会がないと、定跡を突き詰めようという意欲はなかなか湧きませんね。

藤井聡太六冠 ©時事通信社

 ――そういう後手番の工夫はいくつか持っているんですか?

 伊藤 それは仮にあっても言えませんけど(笑)。

 ――第二局は終盤で藤井六冠にミスがあって逆転。一勝一敗のタイに戻したことは、どういう意味がありましたか。

 伊藤 本当に大きな一勝だったと思います。第一、二局と普通に負けていたら、そのまま終わってしまってもおかしくなかった。