『西洋の敗北』が大きな話題となっている歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏が、建築家の隈研吾氏と対談。日本と海外諸国の建築の違いについて語り合った。(通訳=堀茂樹)
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トッド理論に勇気づけられた
隈 建築の分野で言うと、とくに1985年のプラザ合意以降、米国の建築が退屈なものになっていきました。同時に世界のなかで米国の建築家が存在感を失っていきました。それはおそらく経済の金融化によって「モノとしての建築」が「金融資産としての建築」に変わってしまったからです。トッドさんの理論はその点を見事に説明してくれます。
一方、日本の建築が、世界のなかで一定の存在感を示し、日本の文化のなかでも尊重されているのは、「直系家族」(長子相続で親子関係は権威主義的で兄弟関係は不平等)という日本の家族システムと深い関係があるのではないでしょうか。直系家族社会について、「長期的な視点に立つことができ、知識・技術・資本の世代継承やモノづくりに長けている」とトッドさんは指摘していますが、米国と対照的なこうした特徴が日本の建築の強みにつながっているのではないか、と。一言で言えば、建築に関わる日本人として、トッドさんの理論に大いに勇気づけられ、自分の進むべき方向に自信を持つことができたわけです。
トッド 過分なお言葉をありがとうございます。建築について十分な知識はありませんが、ある社会の文化や経済のあり方は、家族システムに大きく規定されるので、「建築」と「家族システム」には関連がある、という考えには直観的に同意します。その上で急いで付け加えたいことがあります。
家族システムの観点から言うと、フランスは、かなり多様性に満ちた特殊な国です。フランス革命を牽引したパリ盆地と地中海沿岸は「平等主義核家族」(均等相続で親子関係は自由で兄弟関係は平等)の地域ですが、スペインとの国境に近い南西部(地中海沿岸を除く)には、日本と同じ「直系家族」の地域もあります。
フランスの「直系家族」の中心地はトゥールーズで、とても美しい魅力的な街です。ここでは家族システムは「家(メゾン)のシステム」とも呼ばれ、「家族(famille)」と「家(maison)」が区別されていないのです。「オスタル(hostal)」という言葉もありますが、これは「家=家族」を意味します。そしてバスク地方(スペインとフランスのピレネー山脈を挟んだ一帯)では、「家」と「土地」との結びつきが強く、地名や家の名が姓の由来になっています。





