ライブドア事件が発生し、株式投資に逆風が吹き荒れていた06年、なぜ作家の橘玲は運用に関する書籍を上梓したのか。「超インフレ時代を生き抜くための新・投資入門」(文春MOOK)より一部抜粋し、20年経った今その理由と資産運用の重要性が増した現代で最も最適な投資方法を紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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「株のことは一切知らない僕でも分かるように書いてください」
今から20年くらい前、この本の執筆を依頼してくれたのは、当時、文春新書の編集者だった細井秀雄さんでした。いま平山周吉というペンネームで数々の賞を受賞されていますが、その細井さんから「株の本を書いてくれないか」と声をかけられたのが始まりです。
当時は堀江貴文さんのライブドア事件※1などがあり、世間の株式投資への関心が高まっていた時期でした。「何を書けばいいんですか?」と尋ねると、細井さんから「僕は株のことは一切知らないから、そんな僕でも分かるように書いてください」と。
それまで私は、経済系の雑誌などで、ある程度知識のある読者を対象にしていましたが、それを新書の読者向けに、これ以上ないくらい分かりやすく書いてみるというアプローチで執筆しました。
『臆病者のための株入門』というタイトルも、細井さんがつけてくれたものです。「自分は臆病者で、株には絶対手を出したくない。そんな自分でも楽しく読めた」という意味を込めたそうで、編集者としてのセンスの良さに感心しました。
予想外だったのは、これまでの経済本とは異なる読者が読んでくれたことです。文春新書を手に取るのは、それなりにお金は持っていて、投資にも興味があるけど、「ちょっと怖い」と感じているシニア層でしょう。そんな人たちが新たな読者となってくれたのです。
揺れ動いた20年前の価値観
2006年当時を振り返ると、株式投資に対する世間の風潮は複雑なものでした。ライブドア事件の頃は、「株なんてけしからん」「汗をかかずに儲けるなんて」という雰囲気がありました。
その背景には、90年代末のインターネットバブル※2とその崩壊という、ジェットコースターのような経験があります。97年の金融危機で「日本経済はもう終わりだ」と悲観論が広がったかと思えば、ヤフーのようなIT企業が登場し、21世紀への期待感から市場は熱狂的なユーフォリア(陶酔感)に包まれました。
しかし、2000年にバブルが弾けると、風向きは一変します。ライブドア事件は、戦後日本が培ってきた秩序を守るために、堀江さんのような“異物”を恐れ、排除しようとした揺り戻しだったと言えるでしょう。
だからこそ「臆病者」たちは、批判しながらも、「儲かるなら自分もやってみたい」という興味と羨望が入り混じっていた。「自分たちが汗水流して貯めたなけなしの貯金が数百万円なのに、なぜあんな若造が何億、何十億も持っているんだ」という感情ですね。
それまで日本人の資産運用といえば、不動産と預貯金がすべてでした。株をやるのはごく一部の特殊な人たちで、「住宅ローンを組んでマイホームを買った」と言えば会社で褒められるのに、「株をやっている」と言うと「そんなギャンブルやめておけ」と怒られる。そんな偏った認識が当たり前だったのです。
それが90年代半ば頃から、アメリカで行われているような株式投資による資産形成が注目され始め、トレンドに敏感な人たちが米国株投資について議論し始めた。まさに、価値観の端境期でした。今ではそれが当たり前になったのですから、この20年で本当に大きく変わったと感じます。







