(つだかんじ 俳優。1965年、福井県生まれ。93年『ソナチネ』で映画デビュー。2003年ブルーリボン賞助演男優賞、09年『トウキョウソナタ』で高崎映画祭最優秀助演男優賞、21年『山中静夫氏の尊厳死』で日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞。映画・ドラマ・演劇でバイプレイヤーとして活躍。)

 

 俳優生活も振り返れば30年以上続いてるんですね。今年迎える還暦も何だか実感が湧きません(笑)。憧れだった大杉漣さんたち先輩方に比べれば、まだまだ貫禄不足。もっと精進しないといけないなと思います。

 現在、映画・ドラマに欠かせない“顔”である俳優・津田寛治さん。津田さんは1965年、福井県福井市に一人っ子として生まれた。

 母は専業主婦、父は地元の広報紙の発行人でした。生家の記憶って2、3歳の頃かな。場所は判然としないんですが、暗闇のアパートの一室を覚えてます。その頃、近所の川に架かる一本橋を渡っているときに「なんで落ちないのかな」と不意に考えちゃったんです。で、変な歩き方をしてたら鉄骨が抜けて川へ落ちた。運良く母が近くにいたので事なきを得ましたが、落下のイメージは忘れてないですね。

 そこから引っ越した場所は市の中心部から離れた荒川と国道8号が交差する南四ツ居。2階建ての借家で上に一間、下が台所にトイレに茶の間と座敷。階段がメチャクチャ急で何度も落ちました。小学校4年くらいで裏隣にあった少し広めの借家へ越し、上京まで住んでいました。近所は製菓や精密機器工場が多く、国道拡張工事の真っ最中で工場と工事現場に囲まれてるような感じ。わりと1人でいるのも好きで、夕暮れ時にひとけのない、重機が並んだ灰色の空間で遊んだのが原風景として記憶に残っています。

油絵と映画に魅せられた少年時代。映画監督を目指して単身上京

 72年、福井市円山小学校へ入学。津田さんはマンガやテレビに興じ、やがて映画に魅せられていった。

 当時、僕も男子小学生のご多分に漏れず、テレビのキックボクシング中継で観た沢村忠の“真空飛び膝蹴り”のマネをしたり、『ウルトラセブン』や『仮面ライダー』に夢中になってました。それとマンガも大好きでした。手塚治虫さんが「週刊少年チャンピオン」で連載開始した『ブラック・ジャック』や、赤塚不二夫、永井豪作品にも夢中でしたね。読むだけで飽き足りず裏紙にマンガを描き、ホッチキスで留めて教室に持っていったりもしてました。そんな折、父が石ノ森章太郎『サイボーグ009』を仕事帰りに1巻ずつ買ってきてくれたのは嬉しかったなァ。読んだ後、好きなコマを模写するんですが、石ノ森作品にはキスシーンが多いので妙にドキドキしたりしてました(笑)。

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source : 週刊文春 2025年8月7日号