四半世紀、共に歩んだ役がある。

 アニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』で演じた「(かい)()()()」。主人公のライバルというメインキャラクターを初めて務めた、声優人生の出発点とも言える役だ。

「遊戯王」は漫画原作に始まり、アニメシリーズは今年で25周年を迎え、カードゲームも含めて世界中に『Yu-Gi-Oh!』として展開している偉大な作品なのだ。何より凄いのが、20年以上経った今でもゲームやナレーション、イベントなどで海馬を演じる機会がある事だ。先日はニューヨークでイベントに登壇した。大ホールがニューヨーカーで溢れる程に「遊戯王」は今でも世界中で愛されているのだ。

 今更ではあるが作品の解説をしておこうと思う。『遊☆戯☆王』とは、「デュエル!」「貴様のターンだ!」「くっ!」「フフフ、ハハハ、ワーハッハッハ!」「そいつはどうかな」「グハッ!」「ターンエンド!」という感じの作品である。幾分省略してしまったが、詳しくはアニメを観て頂ければ幸いである。

 アフレコをしていた当時、遊戯王はカードゲームも日本の小中学生の間で大流行。だがその熱狂を僕らアニメキャストは分かっていなかった。盛り上がってるらしいよ。そうなんだねぇ。ピンと来ていなかった。当時はSNSも無く、イベントもやらない作品だったからファンの皆様の声を知る機会がなかったのである。台風の目は無風なのだ。後に20年以上も続く自分の代表作になろうとは。血管を浮かせ、喉から血が吹き出んばかりのアフレコ、下手クソながらも真っ直ぐな日々は楽しかった。

 僕が演じた海馬はやることのスケールが大きい。そして台詞がエキセントリック。名言が多いのも強い個性の一つだ。演じた時の記憶を辿ると、勝った記憶がほぼ無い。にも関わらず負けた感覚も無い。海馬はデュエルに負けても精神が負けていないのだ。尊大で、圧倒的に強いメンタル。ファンの皆様はそんな彼を面白がり愛してくれているのだろう。そして、「こんな風に生きられたら楽しいだろうなぁ」と感じているのではないだろうか。僕もその一人だ。

 テレビシリーズが終了して演じる機会が無い期間を経て、数年振りに海馬としてナレーションをする事があった。精一杯演じたのだが、あるネットの投稿を見てしまった。

「海馬、老けた?」

 火がついた。それはもう地獄の業火の如く。しかしその後、リベンジの機会はなかなか訪れず、業火は何年も燃え続けた。

 時は2016年、遂に機会を得た。劇場版『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』である。しかもただの劇場版では無い。原作の高橋和希先生自らが製作総指揮、原作、脚本を務める事になったエネルギーの結晶。その物語の中心に海馬瀬人。僕の中に燃え続けていた業火はその出口を得たのである。

 アフレコ初回。その時の事はよく覚えている。数々の戦場を共に闘って来た戦友、遊戯役の風間俊介君とのデュエルシーン。僕は積年の恨みを晴らさんばかりに叫んだ。「ドローーーー!」。現場で見守って下さっていた高橋先生はその時の事を後に話してくれた。「風が吹いて来たよ」と。先生は優しいからなぁ。ありがとうございます。自己満足かもしれませんが、あの時、前より海馬を生きられた気がしました。

 高橋先生とは沢山話した。先生はよく「津田君は海馬っぽいよね」とおっしゃった。とても嬉しかったけど、本当に海馬っぽいのは先生ですよと心の中で返していた。これは僕の勝手な想像なのだが、お好きだったアメコミやSF作品に対して絶賛する一方で「こんないいもん作りやがって」という想いが先生の心の中には渦巻いていたのではないかと思う。名作に対する憧れや悔しさ、そこに社会やテクノロジーに対する反骨心、そんな様々な尖ったエネルギーが飽和し、血が流れる様に『遊☆戯☆王』という作品や海馬に注ぎ込まれていたのではないだろうか。だからやはり海馬っぽいのは高橋先生なのである。

先生からの贈り物

 まだ駆け出しだった頃から僕を見守り応援して下さった先生に、ある時一つのお願いをした。

 “楽屋暖簾”は自分で作る物ではなく、ファンの方や名のある方から贈って頂く物だ。ずっと欲しかったが、自分で作る訳にも誰かに頼む訳にもいかないまま随分時が過ぎていた。楽屋暖簾を持っていない僕は、一人前になれていない様にも感じていた。ご飯をご一緒していた時に高橋先生に思い切ってお願いをしてみた。先生はとても喜んで下さり、「こんな光栄な事はない。俺、飲んでると忘れちゃうから覚えておいてね」と冗談混じりで周りの方に言いながら快く引き受けて下さった。

 それから半年程経った頃、先生の訃報が入った。あまりに突然の出来事に呆然とした。心にぽっかりと穴が空いた。ご逝去についての報道が落ち着いて来た頃、ふと暖簾の事が頭を過った。残念だけどきっとそういうご縁の話だったんだなぁと。

 その年の暮れ、先生の担当編集者さんからご連絡を頂いた。「先生の暖簾をお渡ししたいです」。黒バージョンと青バージョンの二垂れの暖簾。先生直筆の海馬瀬人と、海馬の魂のモンスター、ブルーアイズホワイトドラゴン。言葉が出なかった。

 先生からの贈り物は、東京ドームでの遊戯王25周年イベントでお披露目した。SNSにも投稿したから、世界中のファンが見てくれた。先生の贈り物を褒めてくれた。

 先生、遊戯王は今も生き続けてますよ。世界中のファンが楽しんでますよ。希望と勇気を貰ってますよ。

 海馬瀬人。高橋和希先生の魂を宿したスケールの大きな尖った男。この男をいつまでも演じられる様に頑張りますね。この男に負けない様に生きようと思いますね。

 四半世紀、共に歩んだ役がある。それはとても特別な役だ。

 高橋先生、本当にありがとうございました。

挿画 オノ・ナツメ

つだけんじろう/声優、俳優。1971年、大阪府生まれ。1995年、アニメ『H2』の野田敦役で声優デビュー。アニメや洋画吹替、ナレーターなどの声優業と舞台やドラマなどの俳優業の両方で活躍中。

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source : 週刊文春 2025年11月20日号