ユン、チェン、キンポーと聞いてピンと来る人はいるだろうか?

 ピンと来たらきっと僕と同世代。もしくは1980年代カンフー映画のファンではないだろうか。ドラマ『ラムネモンキー』、3人の主人公のあだ名は、香港映画の大スターとして一時代を築いたユン・ピョウ、ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポーから来ている。反町隆史君が演じる吉井雄太(ユン)、大森南朋君が演じる藤巻肇(チェン)、そして僕が演じる菊原紀介(キンポー)という見た目も性格も違う凸凹3人組は1988年の中学時代、映画研究部でカンフー映画製作に夢中だった仲間。だがそんな3人も今や51歳。それぞれが人生に行き詰まりを感じている。そんな3人が久々に集まり、恩師であるマチルダ先生(これまた懐かしいファーストガンダムのキャラ名)の失踪の謎を追う物語。

 ドラマの中の3人も、実際に演じる僕ら3人も、脚本の古沢良太さんとプロデューサーの成河広明さんも、ほぼ同世代。氷河期世代のほぼ先頭集団。社会に出たらバブルが弾けていて、大人たちが浮かれ踊った祭りの残骸、失われた30年を生きて来た悲哀がドラマの根底を流れている。

 エリートサラリーマンのユンは会社の為に行った贈賄事件で逮捕され、離婚問題も勃発。映画監督のチェンはパワハラでドラマの監督を降ろされ、撮りたくもない三流映画の監督としてジタバタ。漫画家の夢を持っていた町の理容師のキンポーは認知症の母を抱えて将来の不安に怯える。コメディタッチの作品だが、3人が重いものを抱えていてなかなかに世知辛い。

 物語の構造としては、1988年の中学時代と中年になった現代を行き来する展開。若い皆さんが分からないであろう懐かしいサブカルワードが説明もなしにポンポン出てくる。アニメから「マチルダ」「フラウ・ボゥ」「ハモン」「ミンメイ」、映画からは「ランボー」や「ジェイソン」、他にも「たこ八郎」だの「タケちゃんマン」だの。レンタルビデオ店やリーゼントのツッパリ中学生、ディスコにいるような肩パッドの入った若いお兄さんなんかも登場する。3人と行動を共にすることになるカフェの若い店員白馬ちゃん(福本莉子)の目を通して、現代と88年のギャップも描かれる。

 88年は確かに今と違う世界だ。路上はおろか、電車の中や飛行機の中でも煙草が吸えた。吸えない場所は殆どなかった。深い時間ならテレビで女性の裸も出て来たし、教師の体罰も珍しいことではなかった。88年は高校生だった僕も、これが普通の世界だと思っていた。今思えばあの頃はおじさんのルールが強かったように思う。おじさん達がおじさん達のルールを社会に強いていた。戦後復興から高度成長期、そしてバブル期。おじさん達が日本を引っ張り、そして浮かれた。祭りが終わってもおじさん達のルールは変わらなかった。

人生を取り戻す物語

 だが、氷河期世代がおじさんになったら、ルールが変わった。氷河期世代の悲哀もそこにある気がする。若い頃におじさん達のパワハラを受け、自分達がおじさんになったら「これってパワハラになるのかな」とビクビク。年功序列は崩れ、積み立てて来た年金が貰えるかも怪しくなり、新入社員の初任給は自分たちの今の給料と大して変わらない。暴発寸前という氷河期世代は多いのではないだろうか。

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source : 週刊文春 2026年3月26日号