「相手はお前を嫌がっている――」落合のその言葉が、俯く小林の眼前を拓いた。
(すずきただひら 1977年千葉県生まれ。日刊スポーツ新聞社に入社後、中日、阪神を中心にプロ野球担当記者を16年経験。2019年よりフリー。著書に『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』、取材・構成担当書に『清原和博 告白』、『薬物依存症』がある。)
2011年は特別なシーズンだった。薄紅色の花びらが人々に春を告げ、それらが見上げる空にひらひらと舞う頃になっても、まだ日本列島にプレーボールはかからなかった。
3.11――。太平洋、三陸沖の海底から起こった大地の鳴動は、人智の及ばぬ海水の巨大なうねりとともに一瞬で1万人以上の命を奪い去っていった。あとに残されたのは変わり果てた街の景色だった。
日常は永遠には続かない。終わりはある日、突然やってくる。
この世界の、逃れることのできない摂理に人々が打ちのめされる中、プロ野球も例年より1カ月遅れの開幕を余儀なくされていた。
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source : 週刊文春 2020年12月31日・2021年1月7日号