(ひるたなおみ/東京都生まれ。2013年、シナリオS1グランプリで準グランプリ、14年、城戸賞で準入賞。同年『東京ガードセンター』(Dlife)でデビュー。『しずかちゃんとパパ』(22年、NHK)、『舟を編む』(24年、NHK)、『銀河の一票』(26年、フジテレビ系)等の話題作を次々と手がける。)

〈人は幸せになる本能を持っている〉
これは舞台の脚本を書き始めた若い頃の台詞です。それからの人生で本当に色んなことがあって、昔の自分はなんてお気楽だったんだろう、なんて思っていた時期もあったのですが……。
そう半生を振り返るのは、いま最も注目を集める脚本家の一人、蛭田直美さんだ。観た人全てが前向きになるような、心の襞に染み入る人間ドラマが高い評価を受ける彼女の、紆余曲折に満ちた人生は東京都内にあった社宅団地から幕を開けた。
ご近所付き合いの濃い場所でした。他所のお宅に何か用事があると、呼び鈴も押さずに中へ入っちゃうような。仲の良い友達も同じところに住んでいたので一緒に遊んではいましたが、一人遊びもよくやっていました。団地の広場にネズミモチの大きな木があって、わざわざその上で本を読んだり。簡単に登れるような木じゃなかったんですけど(笑)。あの木登り好きは、母がお気に入りだった『赤毛のアン』の影響かもしれません。
一人遊びといえば、毎日のように人形劇もやっていましたね。団地の集合住宅って階段の踊り場部分に壁があるじゃないですか。外に向かって上半分がくり抜かれているような。その平らな部分を舞台、外側を客席に見立てて、即興で物語を拵える。振り返ると、あれが最初の創作体験だったかもしれません。誰も見ていませんでしたから、端からは怖い子に見えたかも(笑)。でも、自分の世界に浸っているのが楽しかった。兄と同じ部屋だったので完全なプライベート空間がなかったせいもあるのかな。自分の部屋を持っている友達のことがすごく羨ましかった。
初回登録は初月300円で
すべての記事が読み放題
既に有料会員の方はログインして続きを読む
※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。
source : 週刊文春 2026年10月22日号
お気に入り記事