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岸田首相、イノベーションの「現場」に足を|三木谷浩史

三木谷浩史「未来」 第27回

三木谷 浩史
ニュース 政治 経済


 第二次安倍政権の発足からしばらくして、当時の安倍晋三首相をシリコンバレーに案内したことがあった。現地では、ライドシェア事業の起業家たちとの会談をセッティングしたりした。

 僕は日本の政治家や官僚にも、積極的にイノベーションの最先端を走るアントレプレナーたちと交流を持って、その現場を少しでも体感してほしいと常日頃から思っている。国の舵取りを担う彼らには「次の選挙」や「次の予算」ではなく、「10年〜20年先」を常に見つめた上で戦略を立ててもらいたい。そうでなければ、この先の日本は本当に「沈没」してしまう、という危惧を真剣に抱いているからだ。

「未来」を見通した戦略を練っていくためには、やはり「現場」を知らなくてはならない。僕が新経済連盟での政策提言活動に力を入れているのも、それが大きな理由だ。すぐには目に見える成果に繋がらないかもしれないけれど、そうした活動を積み重ねていくうちに少しずつプラスの影響が出てくると信じている。

 安倍さんにとってもイーロンと会ってテスラに乗り、いろんなアントレプレナーたちと対話をした体験は大きな刺激になったと思う。電気自動車や自動運転、ライドシェアがこれからの世の中をどのように変えていくか。彼らの話を直に聴くことによって、イノベーションの現場にあるリアルな雰囲気を感じてもらえたに違いない。

 もちろん、このシリコンバレーの体験は一つの例に過ぎないと思う。でも、安倍さんは「民泊」の規制緩和に踏み切るなど、比較的、未来を見据えた戦略に前向きな面があったという印象を抱いている。

「新しい社会主義」に見える

 では、昨年秋に誕生した岸田政権はどうだろうか。1月11日で100日間の“ハネムーン期間”も終わり、いよいよ2022年は政権運営の試金石となる1年だ。僕はこの連載でも繰り返し書いてきた通り、「イノベーション」と「競争」によって経済をドライブしていくことが、日本復活への条件だと考えている。そのためには強いリーダーシップと本質的な議論を厭わない姿勢が欠かせない。

 岸田文雄首相は総裁選以降、「新しい資本主義」をスローガンに、金融所得増税など分配を重視する政策を掲げてきた。でも、ツイッターでも指摘してきたように、彼の言う「新しい資本主義」は、僕には「新しい社会主義」に見える。

「新しい資本主義実現本部事務局」の看板を掲げる山際経済再生相(左)と岸田首相

 そもそもの前提として、日本がいま抱えている問題は「格差」ではない。むしろ「低すぎる生産性」だ。「金は天下の回りもの」と言われるように、適切な投資が成長を生み、さらにそれが投資を生むという循環こそがキャピタリズムの原則。成長や投資は若者のチャレンジ精神を刺激し、新しいイノベーションが生まれる土壌となる。そうして経済が成長していくことで、自然と分配も起こる。

 本来、国はそうした環境を実現するためのプラットフォームを作っていくべきだろう。生産性の低さをどうにかしないことには、分配による格差の縮小も望めないからだ。まずは、イノベーションを阻害する既得権益を打破していくこと。実は、国民の多くもその必要性には潜在的に気付いているのではないか。小泉政権時代、既得権益打破を象徴する郵政民営化というテーマが支持されたのもその証左だと思う。

 その意味でも、一度は撤回したとはいえ、岸田政権が金融所得増税を早々に言い出した時は、非常に間違ったメッセージを社会に投げかけてしまったように感じた。耳あたりの良いポピュリズム的な政策は短期的な支持率の上昇につながったとしても、中長期的には日本の衰退をさらに進めかねない。「お金を稼ぐ」ことに対して懲罰的な税制を掲げれば、日本の復活にとって重要な「挑戦する人々」のエネルギーがいよいよ削がれてしまうだろう。

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source : 週刊文春 2022年1月20日号

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